国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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南極海におけるオキアミとサルパの競合関係の検証

[要約]
 南極海で操業するオキアミ漁船でルーチン的に記録されている中腸腺の緑色程度「餌食い 率」は、ナンキョクオキアミの植物プランクトン摂食状態を示す良い指標となることを明 らかにし、これを用いてオキアミとサルパが植物プランクトンをめぐる直接的な競合関係 にないことを示した。


遠洋水産研究所・海洋南大洋部・南大洋生物資源研究室
[連絡先] 0543-36-6069
[部会名] 遠洋漁業関係試験研究推進会議
[専 門] 資源生態
[対 象] 他の甲殻類
[分 類] 研究


[背景・ねらい]
 近年、南極海生態系の鍵種であるナンキョクオキアミ(以下オキアミ)の生物量の減少が 指摘されている。この現象の説明として、温暖化にともなって増加したサルパがオキアミ と互いの餌である植物プランクトンをめぐって競合した結果、オキアミの餌の取り分が減 少しためではないか?という仮説が米国の研究者から出された。この仮説を検証するには 自然環境下でのオキアミの摂食状態とサルパ密度の対応データが必要であるが、過去に調 査船でその様な調査が行われた例はない。南極海において操業する日本のオキアミ漁船は、 網毎に漁獲オキアミの「餌食い率」(植物プランクトンの摂餌により中腸腺が強く緑色に変 色したオキアミの割合)やサルパ混獲に関する情報を記録している。そこで、これら漁業か らの情報を用いてオキアミ-サルパの競合関係の仮説の検証を試みた。


[成果の内容・特徴]

  • オキアミ漁船で毎網記録されている「餌食い率」(中腸腺が強く緑色に変色しているオキアミの割合、図1参照)は、現場海水中の10μm以上の大きさの植物プランクトンの色素濃度と非常に良い相関があることを明らかにした(r2=0.87)。ナンキョクオキアミは10μm以上の植物プランクトンを主要な餌とし、「餌食い率」がオキアミの摂餌状態を表す良い指標となることが分かった。
  • 海域、月、海水温度、サルパ密度を変数とした一般化線形モデルを用いて、「餌食い率」を予測した結果、サルパが全く存在しない場合には0.2程度であるが、サルパ密度が1000倍以上のレンジで変化しても「餌食い率」は0.1程度のほぼ一定の値をとることが示された(図2)。
  • このことから、オキアミとサルパが共存する場合オキアミの摂餌状態はサルパ密度と無関係であることが分かった。また、サルパが存在する場合の「餌食い率」がサルパが存在しない場合に比べて有意に低いことから、サルパとオキアミが好む水塊は異なる(両者は棲み分けている)ことが示唆された。

図1図2

[成果の活用面・留意点]
 南極海生態系の鍵種であるオキアミの資源変動メカニズムを正しく捉えることは南極海生態系保全のための重要な課題である。本研究はオキアミによる植物プランクトン摂餌量がサルパ増加によって脅かされているとする仮説を否定した。このことはオキアミ生物量減少の原因を究明する上で、競合関係よりむしろ他の環境要因(たとえば海氷、海流、水温、植物プランクトン量等)の変化を中心に考えてゆくことが妥当であることを意味する。
漁船で得られるデータの長所を生かすことにより、調査船のみでは得られない情報が得られることが示された。


[その他]
研究課題名:南極オキアミの生活史の研究
予算区分 :漁業調査
研究期間 :平成10年度(昭和54年度?平成10年度)
研究担当者:川口創、一井太郎、永延幹男
発表論文等: Do krill and salps compete? Contrary evidence from the krill fisheries」CCAMLR Science、 5巻205-216、1998.「Green krill, the indicator of micro- and nano-size phytoplankton availability to krill」Polar Biology、(印刷中)