国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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動物プランクトン現存量を見積るためのプランクトンカウンターの有効性

[要約]
 動物プランクトンカウンターを搭載した連続観測装置(表層生物環境モニタリング装置)を用いて,親潮水域,混合水域の動物プランクトン現存量が見積もれることが示された。


中央水産研究所海洋生産部低次生産研究室
連絡先    045-788-7652
推進会議    中央ブロック
専門    生物生産
対象    プランクトン    
分類    研究


[背景・ねらい]
 魚類資源の環境収容力を把握するためには,動物プランクトン群集組成の広域的・経年的なデータ蓄積が必要である。現在,動物プランクトン個体密度,現存量は,主としてネット採集と顕微鏡を用いた計数,計測作業で把握されているが,これらは多大な労力と時間を要するため,日本近海では一部の海域を除きデータ蓄積が進んでいない。動物プランクトン個体密度,現存量を迅速に把握するため,動物プランクトンカウンターが開発され,国内でもプランクトンカウンターを組み込んだ連続観測装置が多くの調査船に搭載されている。しかし,日本近海ではこうした装置の有効性が検討されていないため,装置を用いた研究例はほとんどない。この研究では,多獲性浮魚類の索餌海域として重要な親潮水域,混合水域で,動物プランクトン個体密度,現存量を2種類(電気伝導度式と光学式)のプランクトンカウンターを搭載した連続観測装置で把握可能か検討した。


[成果の内容・特徴]

  1. 1997年に2種類のプランクトンカウンターを搭載した連続観測装置を用いて,動物プランクトン現存量が多いとされる5月と減少期とされる8月に,親潮水域,混合水域で観測を行った。装置の有効性を明らかにするため,プランクトンカウンターで計測した粒子密度,粒子体積密度と,計測と同時に採集した試料について,顕微鏡で測定した動物プランクトン個体密度,現存量密度とを比較した。
  2. 2種類のプランクトンカウンターで計測した粒子密度,粒子体積密度と,顕微鏡で測定した動物プランクトン個体数密度,現存量密度との間に,5月,8月共に,それぞれ有意な正の相関(p<0.01)が認められた(図1,2)。
  3. プランクトンカウンターで得られた粒子体積密度から見積もった、親潮水域、混合水域動物プランクトン現存量は,5月に278±852mgDW/m3,8月に19±27mgDW/m3となり,過去にネット採集で得られたデータと比較して妥当な範囲にあった。


[成果の活用面・留意点]
 親潮水域,混合水域では,プランクトンカウンターを搭載した連続観測装置を用いて,動物プランクトン現存量が見積もれることが示された。現在の装置ではプランクトンカウンターによる計測と同時に,試料の採集と顕微鏡による検定作業が必要であるが,多くの調査船に,プランクトンカウンターを組み込んだ連続観測装置が搭載されていることから,これらを有効に利用することで,広域的・経年的に動物プランクトン現存量を把握できる可能性が示された。


[その他]
研究課題名:動物プランクトン自動計測器を利用した海洋生態系研究のための基盤技術に関する研究
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度~10年度)
研究担当者:市川忠史,中田薫
発表論文等:市川忠史,中田薫,加藤聡(1998):動物プランクトン自動カウンティングシステムの精度,1998年度日本海洋学会春季大会講演要旨集,294.