国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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カタクチイワシの加入量調査手法の開発

[要約]
 カタクチイワシの旬別銘柄別漁獲量を月別月齢別漁獲尾数に変換し、コホート分析を適用する手法を開発した。燧灘における愛媛、広島、香川3県の2年間の資料にこの手法を適用し、主産卵期5~9月の加入尾数を推定した。


瀬戸内海区水産研究所 海区水産業部 海区産業研究室
[連絡先]   0829-55-0666
[推進会議]  瀬戸内海ブロック
[専門]    資源評価
[対象]    カタクチイワシ
[分類]    研究


[背景・ねらい]
 閉鎖性の強い燧灘をモデルに信頼性の高い加入尾数推定法を開発することを目的とする。コホート分析による月齢別の資源量推定が可能となれば、成長段階別の資源量を月別に把握でき、管理方策ごとの漁獲益と資源に与える打撃の事前評価が可能となる。


[成果の内容・特徴]

  • 銘柄別漁獲量から、香川県はシラス、カエリ、煮干し(小羽~大羽と定義する)を満遍なく利用し、愛媛県は煮干し利用、広島県はシラス利用とみなせる。3県の漁獲量を込みにして旬別の推移をみると、大羽(産卵前後の親魚)は6月の上旬に、シラスは6月の下旬、カエリは7月上旬、また小羽~中羽は7月中旬以降に漁獲が多かった。このように産卵のため来遊した大羽を6月上旬に漁獲し、その後この親魚から産まれた卵が成長するにつれ、シラス、カエリ、小羽~中羽と順次漁獲する。
  • 銘柄の区分体長を成長式から求めた月齢に変換し、更に銘柄別の漁獲重量を1尾当たりの体重で割って、月齢別の漁獲尾数を求めた。次に月齢を横軸に1から5までの漁獲尾数の対数値を縦軸に直線をあてはめ、その直線の傾きから全減少係数を1.47と推定した。
  • 自然死亡係数を0.1、最高齢の漁獲係数を0.15として、1994年と1995年についてコホート計算し、月別月齢別資源尾数を求め、月齢1の加入尾数を月別に示めた(図1)。加入は両年とも6~7月が、また産卵は加入の1月前の5~6月が盛期であった。
  • 各銘柄の区分体長を使って、体長一月齢変換を行った際に、全減少係数を月齢によらず一定(O.6)と仮定したが、その後コホート計算で求めた月齢別の全減少係数を使い、変換キーを再度作成して、コホート計算を繰り返し、加入尾数推定値がどの程度ふれるか調べた。コホート計算を5回繰り返した場合の月別の加入尾数推定値の変動係数を図2に示した。これによると、4月の変動係数は0.6と比較的大きかったが、4月以外の変動係数はO.1以下と小さく、主産卵期5~9月の加入尾数推定値の安定性は高かった。
  • 1994年の漁獲尾数、加入尾数及び漁獲率はそれぞれ278億尾、304億尾、0.91、同じく1995年では171億尾、192億尾、0.89となった。なお、漁期(10月)末の残存資源尾数は1994年に2.3億尾、1995年に2.9億尾となり、それぞれ加入尾数の0.74%と1.5%であった。
  • 我が国周辺漁業資源調査で行った燧灘における丸特ネットを使用した4~9月の1網当り平均卵数(河野、1997)から4~9月の卵量を1994年に8兆5,140億、1995年に4兆9,860億と推定した。コホート計算で得た1994年と1995年の加入尾数を産卵量で割り、生残率として、それぞれ3.57×10-3と3.43×10-3を得、その対数値を求め、卵から月齢1に至る全減少係数をそれぞれ5.64と5.68と推定した。
  • 本研究のコホート計算では銘柄-月齢変換キーを変えて、計算を繰り返しても、加入尾数推定値は安定していた。この理由は銘柄-月齢変換の再計算の影響を受けない月齢1のシラスの漁獲が多いこと、加入群毎の累積漁獲係数が5~9月で3.7~8.8と大きく、漁獲圧が高い時に加入尾数を正しく推定するコホート分析の利点があらわれているためと考えられる。

[成果の活用面・留意点]
銘柄別漁獲量資料は各県で漁連の共販資料として保存されている場合が多いので、漁獲記録を過去にさかのぼって入手できれば、加入尾数や資源量の年変化を推定できる。
このような研究を通して、加入後の資源管理効果の予測を行ったり、加入尾数の年変化に影響する環境要因や生物学的な要因を検討できる。


[具体的データ]

図1
図1.1994年と1995年の月別加入尾数(1995年の値は破線)

図2
図2.1994年の月別加入尾数推定値の変動係数(図中の数値は初回の発生群別ΣF)


[その他]
研究課題名:カタクチイワシの加入尾数調査手法の開発
予算区分 :漁業調査
研究期間 :平7年~9年
研究担当者:永井達樹
発表論文等:

  • カタクチイワシの加入尾数調査手法の開発、平成9年度我が国周辺漁業資源調査特定水産資源評価技術開発調査報告書、83-94、1998.
  • コホート分析による燧灘におけるカタクチイワシの資源量推定、漁業資源研究会議底魚部会報2、1999(印刷予定).