瀬戸内海魚卵調査標準使用ネット(MTB)の定量採集器具としての妥当性
[要約]
瀬戸内海で標準的に使用されている魚卵調査ネット(MTB)が,定量採集具の条件を満たしているか否かを検討した。その結果,MTBは瀬戸内海においては定量採集具としての条件をほぼ満たしていることが判明した。この結果によりMTBネットの調査データを用いてカタクチイワシ等の産卵量・資源量を計算することに支障がないと判断された。
瀬戸内海区水産研究所 海区水産業研究部 沿岸資源研究室
[連絡先] 0826-55-0666
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門] 資源評価
[対象] かたくちいわし;まいわし
[分類] 調査
[背景・ねらい]
太平洋側の水産研究所および各都道府県水産試験場により浮魚類の産卵量・資源量を推定する目的で実施されている調査では円筒円錐型ネット(略称LMP)が使用されている。しかし瀬戸内海では,1998年現在でも円錐型の丸特Bネット(略称MTB)が標準的に用いられている。MTBは船上での取扱いが容易である反面,目詰まりを起こしやすいとの指摘がなされ,MTBの採集結果をもとに算出されるカタクチイワシ等の産卵量・親魚資源量は,目詰まりに起因した低採集効率により過小評価になっているのではないかという危惧があった。そこで,産卵量調査の定量採集器具としての条件を,MTBが満たしているかどうか検討する目的で,MTBとLNPの採集比較試験を瀬戸内海中央部に位置する燧灘において実施した。
[成果の内容・特徴]
- MTBが定量採集用ネットとしての性能を維持する曳網距離は60m以下である(図1)。
- 鉛直1曳網あたりの魚卵採集量(カタクチイワシ,マイワシ)はMTBよりLNPの方が多いが,濾水量当たりの採集量には差がなかった(図2,カタクチイワシを例示)。MTBは定量採集具としての条件を瀬戸内海のような浅海域では一応は満たしているものと考えられた。
[成果の活用面・留意点]
本報の結果は,瀬戸内海で蓄積されてきたMTBネットの産卵量調査データを用いてカタクチイワシ等の産卵量・資源量を計算する際,濾水量を用いて標準化すればLNPで得られるデータと比較しても過小評価とならないことを示している。ただし,より精度の高いデータを蓄積するためにはLNPのように目詰まりが少なく採集効率が優れたネットを使用するべきと判断される。なお,当該研究室では瀬戸内海におけるカタクチイワシ等の卵分布図を逐次公表していく予定である(図3,カタクチイワシ卵分布例;1996年8月)。
[具体的データ]
図1 MTBとLNPの曳網距離別濾水量の比較
2分(60m)以降LNP(直線)とMTB(曲線)の濾水量の差が拡大する。MTBは約60mで目詰まりが起きる。
図2 MTBとLNPのカタクチイワシ卵の瀬戸内海における採集卵数の比較
浅海域(60m以浅)の濾水量当たりの卵採集量の比較では,両者に差が無いことが明らかになった。
図3 瀬戸内海におけるカタクチイワシ卵の分布例;(1996年8月)
MTBの採集結果
[その他]
研究課題名:重要種の資源量推定
予算区分 :漁業調査
研究期間 :平成8~11年
研究担当者:銭谷 弘
発表論文等:丸特Bネットと改良型ノルパックネットによるカタクチイワシ,マイワシ,コノシロ卵の採集量比較試験,水産海洋研究,62巻3号,1998。