黒潮域におけるマイワシの餌料環境と気候変動
[要約]
マイワシ主産卵期における黒潮およびその周辺海域の動物プランクトン現存量,動物群,餌料プランクトンサイズ組成の経年的な変動と気候要因関係を明らかにし,気候要因からこれらの長期的な変動を明らかにできる可能性を示した。
中央水産研究所海洋生産部低次生産研究室
連絡先 045-788-7651
推進会議 中央ブロック
専門 生物生産
対象 プランクトン
分類 調査
[背景・ねらい]
マイワシなどの多獲性浮魚類仔稚魚期の直接の死因は主として被補食であるとされるが,成長速度が遅いと小さくて食べられやすい期間が長く続くため,餌料環境が仔稚魚期の生残に大きく影響すると考えられる。一方,近年,温暖化や気候変動などの環境変動が海洋のプランクトン生態系への影響を通じて浮魚類の資源変動を引き起こす可能性が指摘されている。マイワシは黒潮を産卵場および仔稚魚の輸送機関として利用するため,黒潮域におけるプランクトン現存量の長期変動と気候変動の関係を解明することは,マイワシの資源変動メカニズムを解明し,変動予測モデルを構築する上で重要である。
[成果の内容・特徴]
九州東岸~東海沖の黒潮域で1971~1989年(潮岬以西の海域では1988年まで)の春季に採集され蓄積されてきたプランクトン試料を解析し,マイワシ仔稚魚の試料としてカイアシ類を含むメソ動物とプランクトン群集の各分類群別現存量と風速,日照率,日射量,水温などの気候要因との関係を調べた。
- 潮岬伊東の黒潮域におけるカイアシ類のうち,頭胸部長1mm以上ならびに1mm未満のカイアシ類現存量の変動傾向の半分以上が,それぞれ,黒潮流路型と関係する指数,この指数を風速および日射量によって説明できること(図1)が明らかとなり,餌料プランクトンのサイズ形成が気候要因に支配されていることが示唆された。
- マイワシ資源が増加し始めた1970年代前半に各メソ動物プランクトン分類群の現存量は高い傾向にあった。
- 黒潮域における多くのメソ動物プランクトン分類群の現存量と冬期の風および水温との間にそれぞれ,正および負の関係が認められた(表1)。近年,とりわけマイワシ資源が減少に転じた1989年以降,冬期の風は弱まる傾向にあり(図2),マイワシ資源減少期に黒潮域におけるメソ動物プランクトン群集の現存量も減少していた可能性があると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
水産庁や気象庁,水路部等で長期的に蓄積されてきたデータから,過去の餌料プランクトン現存量,サイズ組成,メソ動物プランクトン群集構造を復元できる可能性が示された。得られた成果は,マイワシの資源変動説明モデルに取り込まれ,活用されている。
[その他]
研究課題名:産卵海域におけるプランクトン生産力変動
予算区分 :大型別枠研究
研究期間 :平成8~10年度
研究担当者:中田薫・松川康夫
発表論文等 :黒潮周辺海域におけるマイワシの初期餌料環境に関する研究,中央水産研究所研究報告第9号(1997)