モクズガニの効率的な種苗生産技術の開発
[要約]
モクズガニ資源の維持増大のため、種苗生産技術開発試験を行い、親ガニの管理や抱卵技術及び塩分濃度の調整により稚ガニまでの生残率の向上が図られた。
山形県水産試験場、浅海増殖部
[連絡先]0235-33-3150
[推進会議]日本海ブロック
[専門]飼育環境
[対象]他のかに類
[分類]研究
[背景・ねらい]
モクズガニは山形県において最上川をはじめ県内の河口域及び河川で漁獲されているが、近年漁獲量が減少しており、内水面漁業協同組合や市町村からモクズガニ資源の増大を望む声が高まっている。そこでモクズガニ資源を増やすために、種苗生産技術の開発を行った。
[成果の内容・特徴]
種苗生産技術開発試験結果を取りまとめ、種苗生産マニュアルを作成した。この中で特徴的なことは以下の通り。
1. 親ガニの蓄養方法
採取した採苗用の親ガニをふ化までストレスなく飼育する水槽を開発した(図1)。この水槽に抱卵雌ガニを1尾毎収容しふ化まで飼育する。
2. 人工環境下でのペアリング手法による抱卵技術
一般にモクズガニの種苗生産には天然抱卵済みの個体から採苗しているが、未抱卵の雌ガニを採取し、ペアリングにより抱卵させる技術を開発することにより、安定した採苗と計画的な種苗生産が可能になった。図1の水槽に雄1尾に対して雌を2尾以上収容し、抱卵したら1尾ずつ隔離する。
3. 飼育水の塩分濃度コントロールによるモクズガニ幼生付着物防止技術
ゾエア幼生飼育の大量減耗の1要因に体表付着物による疲弊と脱皮不全による死亡がある。一方で、全く発生しない場合もある。付着物の発生した飼育状況と未発生の飼育状況を検討したところ、飼育水の塩分濃度に若干の違いがあることに着目した。付着物の有った塩分濃度と付着物の無かった塩分濃度については、統計的有意差(t検定、危険率0.001以下)がみられ、付着物のなかった時の塩分濃度の平均値が30.5であった(図2)。
1klの飼育水槽を用い、飼育水の塩分濃度を30に調整した試験区と無調整の試験区を設定し、ゾエアおよびメガロパ幼生における体表への付着物の付着状況と生残率を調べた結果、無調整区では飼育水の塩分濃度は33.5~34.6で多くの幼生の体表に付着物が観察され、最終的に稚ガニまでの生産には至らなかった。一方、塩分濃度30試験区では付着物がわずかに観察されたのみであり、脱皮不全による斃死もなく、稚ガニまでの生残率は0.03~17.1%であった
このことから、飼育水の塩分濃度を30に下げることにより、幼生への付着物防止が可能になった。
[成果の活用面・留意点]
今後、本マニュアルに追加、改訂する事項も想定されるが、基本的には、当マニュアルで対応が可能である。
図1 モクズガニ採苗用親ガニ養成兼ふ化槽の透視図
[その他]
研究課題名: モクズガニ種苗生産技術開発試験(県単事業)
研究期間: 平成13年度(平成9~13年度)
研究担当者:山形県水産試験場 浅海増殖部 本登 渉
発表論文: