DNA分析によるヒラメ人工種苗の親子判別
[要約]
DNA分析によりヒラメ人工種苗とその親魚群の親子関係を明らかにしたところ、種苗の親として貢献した魚は1生産群あたりでは全親魚の8~23%、6生産群合計で45%であった。また、雄魚の71%、雌魚の26%が種苗の親として貢献しており、雄よりも雌の方が貢献する魚の割合が低いことが明らかになった。
日本海区水産研究所海区水産業研究部沿岸資源研究室
[連絡先]025-228-0644
[推進会議]日本海ブロック
[専門]増養殖技術
[対象]ひらめ
[分類]研究
[背景・ねらい]
天然集団の遺伝的多様性の保全のためには遺伝的多様性の高い種苗を放流する必要がある。より遺伝的多様性の高い種苗を生産するためには天然魚を親魚として用いる必要があるが、ヒラメは陸上の親魚水槽内で自然産卵された卵を採集して種苗生産に用いるため、実際にどの程度の数の親魚が種苗の親として貢献しているのかはわからない。本研究ではミトコンドリアDNA調節領域375塩基対の塩基配列分析およびマイクロサテライト領域3マーカー座の多型分析により種苗生産機関の親魚と放流用種苗の親子関係を明らかにし、より遺伝的多様性の高い種苗を生産する技術を開発するための基礎資料を得ることを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 雄50尾、雌70尾からなる親魚群のうち種苗の親として貢献していたのは、ひとつの生産群あたりでは9~27個体で、全親魚の8~23%であった(表1)。
- ひとシーズン(6生産群)の合計では雄35個体(71%)および雌18個体(26%)、合計53個体(44%)が種苗の親として貢献していた(表1)。
- ひとつの生産群あたり、雄は最高4尾の雌と、雌は最高5尾の雄との間に子を残していた。
- 雄は生産群によって異なる個体が貢献する傾向が、雌は同じ個体が複数の生産群の親として貢献する傾向があった(図1)。
[成果の活用面・留意点]
種苗の親としての貢献度は雌の方が低かったことから、より多くの親魚に由来する種苗を得るためには雌魚の産卵を制御する技術の開発が必要であると考えられる。
[具体的データ]
図1 採卵日ごとの種苗の親の数(縦棒)と親として貢献した魚の数の合計(重複したものは除く、折れ線)。雌は同じ個体が複数の採卵日にまたがって産卵する傾向が強いため、合計の数値は4回目の採卵以降は頭打ちになった。
[その他]
研究課題名:ヒラメ栽培漁業における遺伝的多様性保全手法の高度化(経常研究・所内プロ)
研究期間 :平成13年度(13~14年度)
研究担当者:藤井徹生 資源培養研究室
発表論文 :ヒラメ人工種苗の遺伝的多様性,水産育種,30,2001 .