耳石による海産アユと人工採苗アユの識別
[要約]
海産アユと人工採苗アユの耳石形態を比較したところ、2つのタイプに分類された。成長に伴いそれぞれの種苗が固有のタイプを有するようになるものと考えられたことから、海産アユと人工採苗アユを識別できる可能性が示唆された。
神奈川県水産総合研究所内水面試験場
[連絡先]042-763-2007
[推進会議]内水面
[専門]飼育環境
[対象]あゆ
[分類]調査
[背景・ねらい]
近年、系統の異なるアユの種苗放流が盛んに行われている。河川に混在するアユ種苗の系統を識別して、放流種苗の動向や再生産系統を調査することは、河川漁場を有効に利用するために重要な課題である。そこで、種苗の由来を個体レベルで識別できる簡便な方法を検討した。
[成果の内容・特徴]
- 海産アユと人工採苗アユについて、耳石(扁平石)の形態観察を行ったところ、2つのタイプに分けることができ、それぞれAタイプ、Bタイプとした(図1, 表1)。
- 海産アユの耳石はすべてAタイプであったのに対し(図1A)、人工採苗アユの成魚は全てBタイプであった(図1B)。
- 人工採苗アユの稚魚は両タイプを有していたが、AタイプからBタイプに形態変化したと思われる耳石も認められたことから(図1C)、人工採苗アユの耳石は成長に伴い、Bタイプになるものと考えられた。
- 人工採苗アユの稚魚について、耳石3種類の有無を観察したところ、左右にそれぞれ3種類の耳石を有する正常個体の割合は35%であった(表2)。
- これらのことから、耳石の形態変異と有無により、両種苗の個体識別ができる可能性が示唆された。
[成果の活用面・留意点]
アユの耳石は比較的大きく観察しやすいうえ、上記の差異は研磨せずに容易に判別ができる。しかしながら、湖産アユの知見は不明であるので、3系統が混在する河川の調査では、人工採苗アユのみを識別することになる。また、人工採苗アユの稚魚放流では、両タイプの耳石が認められるものと予想されるので、放流種苗のBタイプ耳石の出現率を標識率として把握しておく必要がある。なお、耳石の形態変異と欠損について、これに及ぼす飼育環境要因と魚に対する影響を、現在、検討中である。
[その他]
研究課題名:アユ種苗総合対策事業(内水面重要種資源増大対策事業:全国内水面漁連)
予算区分:受託事業
研究期間:平成11年度(平成9~13年度)
研究担当者:井塚 隆、戸井田伸一
発表論文等:神奈川県水産総合研究所研究報告第6号