イワナの生息環境と渓畔林の関係
[要約]
イワナの棲息する渓流において、水辺林(渓畔林)は夏期の水温を抑制した。イワナの生息密度は、渓畔林のある場所で多く、また、渓畔林に由来する倒流木は、イワナの棲息場所を提供することがわかった。
山形県内水面水産試験場
[連絡先]0238-38-3214
[推進会議]内水面
[専門]内水面生態系
[対象]さけ・ます類
[分類]行政
[背景・ねらい]
渓流魚類にとって水辺の渓畔林は生態的に重要であるといわれているが、具体的な知見はまだ少ない。そこで、イワナの水温および棲息場の面からみた渓畔林の生態的役割を明らかにすることを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 最上川の小支流である2つの渓流で調査を行った。渓畔林の植被率は、41%および19%であった(表1)。
- 渓畔林の植被率の高い渓流では、低い渓流と比べて夏期の最高水温が抑制され、河川による差は最大2.8℃に達した(図1)。冷水性のイワナにとって、渓畔林は水温調節の面で重要な働きをすると考えられた。
- イワナの生息密度を6~9月に白夫沢において調査した。その結果、生息密度は、同じ河川内でも渓畔林の分布する区間(樹冠閉鎖域)では渓畔林のない区間(樹冠開放域)に対して2倍高かった(表2)。
- イワナは、岩、木の根および倒流木の下(カバー)や淵に多く認められた。一方、渓畔林の多い渓流は、倒流木によるカバーに富んでいた(表3)。渓畔林は、倒流木を介してイワナに棲息場を供給しているといえる。
- 以上より、渓畔林はイワナの重要な生活環境要素である水温や棲息場にとってかなりな貢献をしていると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
渓流魚の棲息に対して渓流沿いの森林が有する重要な機能の一端が判明したことから、生態系の保全や渓流魚の増殖を進める上で、渓畔林は留意すべき環境要素といえる。しかし、渓畔林と魚類の生態的な関係について定量的な知見は不足しており、どのような種類の木をどれぐらい保全することが、魚類の増殖に結びつくかについては、今後の研究課題である。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:森と川の生態系調査
予算区分:県単独事業
研究期間:平成9~12年度
研究担当者:平野央・今野哲・荒木康男
発表論文等:森と川の生態系に関する基礎調査報告書、山形県内水面水産試験場、山形県森林研究研修センター、2001。
2つの山地渓流における夏期水温の推移、山形県水産研究報告、第2号、2002。(投稿中)