国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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アユの飼育技術による耐病性向上技術の開発

[要約]
 通常範囲内の個体数密度であっても飼育が長期化するとストレッサーとなり,魚体の免疫機能の減退に伴う耐病性の低下が認められた.さらなる低密度飼育の励行により,冷水病の発症率は低下することが予想された.また,輸送時の高い個体数密度は急性的なストレッサーとして魚体に働きかけることが明らかになった.水流の付加による成群性の喚起が,個体数密度によってもたらされるストレス効果を半減させることを見いだした.


中央水産研究所 内水面利用部 魚類生態研究室
[連絡先]0268-22-1331
[推進会議]内水面
[専門]内水面
[対象]アユ
[分類]調査


[背景・ねらい]
 放流待機中の畜養過程において,冷水病に由来する種苗の減耗が深刻化している.そこで本課題では,冷水病の感染ならびに発症に対して抑制効果のある飼育技術の開発を目的として,魚体の免疫活性と耐病性の関係を明らかにし,それをもとに免疫活性を維持するための飼育環境条件の探索を行う.


[成果の内容・特徴]

  • 飼育環境に付随する種々のストレッサーが魚体の免疫機能に負の効果を及ぼし,耐病性を低下させることにより冷水病の発症を招くという仮説をたて,その検証を行った.
  • 飼育実験の開始からおよそ1週間を経過した頃から,自然感染による冷水病発症個体が,中・低密度群(200,50/個体m2)よりも高密度群(625個体/m2)において高頻度で出現した(図1).
  • 飼育条件下における収容個体数密度が高くなるほど,ストレス強度の指標となる血中コルチゾル濃度は増加する傾向を示し(図2),また,免疫活性の指標となる血中免疫グロブリン濃度と血中コルチゾル濃度の間には負の相関関係が示唆された.
  • 中庸な飼育密度であっても慢性的なストレッサーとして機能するので,冷水病の感染・発症の阻止には,さらなる「うす飼い」の励行が望ましいことが明らかにされた.
  • 種苗輸送時を想定した状況下(200,400,600,800,1000,1200,1400個体/m2)では,1000個体/m2を境に血中コルチゾル濃度の急増が認められ(図3),個体数密度が急性的なストレッサーとして機能することが判明した.
  • 収容タンク内に水流を付与して魚の成群性を喚起することにより,高密度条件下におけるストレス効果を半減させることに成功した(図4).


[成果の活用面・留意面]
 「うす飼い」では収容可能な個体数が犠牲になる一方で,発病による減耗が抑えられるため,事業における経済性を損なう危険性は少ないと考えられる.また,本成果はストレスと免疫機能の関係に立脚しているので,冷水病に限らず,他の感染症についても敷衍することは可能である.


[具体的データ]

図1 図2

 

図3 図4

[その他]
研究課題名:アユの飼育技術による耐病性向上技術の開発
予算区分:特別研究
研究期間:平成11~13年度
研究担当者:井口恵一朗・伊藤文成
・Iguchi et al. The influence of rearing density on stress response and disease susceptibility of ayu (Plecoglossus altivelis). Aquaculture (submitted).
・Iguchi et al. Reduction of transport stress of ayu by obligated schooling. Fis heries Science (in press).