国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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2025(R07). 3. 3 海の許容量を超えたマイクロプラスチック―長期間安定後、2010年代に入り急激に増加開始―

令和 7 年 3月 3日

東京大学

水産研究・教育機構

 

海の許容量を超えたマイクロプラスチック

―長期間安定後、2010年代に入り急激に増加開始―

発表のポイント

  • 戦後から現在に至る71年間の日本周辺海域のマイクロプラスチック密度変動を調べた。
  • 世界最長の時系列試料解析により、海洋プラスチック汚染の進行は一様でなく、80年代以降30年以上の停滞期を経て、直近10年で急激に汚染が進んでいることが明らかになった。
  • 長年安定していたマイクロプラスチック密度の急激な増加によって、生態系に対するリスクが飛躍的に高まっている。本成果を基盤として汚染影響予測研究の進展が期待される。

【概要】

 東京大学大学院農学生命科学研究科の高橋一生教授、宮園健太郎大学院生、大気海洋研究所の山下麗特任研究員、水産研究・教育機構水産資源研究所の田所和明主幹研究員らによる研究グループは、海表面を漂うプラスチックごみの量について、戦後から現在に至る71年間の世界最長の時系列変動を明らかにしました。

 海面に浮遊するプラスチックごみ量の長期動向は、プラスチック汚染が海洋生態系に与える影響を理解する上で重要な手がかりとなりますが、汚染問題が注目されるようになった1990年代以前の研究例が少なく、特に1970年以前については世界的に観測例が全く存在しないため、汚染開始からどのような過程を経て現在の状況に至ったのか、明らかにされていませんでした。東京大学大学院農学生命科学研究科高橋教授らの研究グループは、水産研究・教育機構に保管されていた1949年以降の時系列プランクトン試料に含まれる海洋プラスチックごみ濃度を調べ、戦後から現在に至る71年間の世界最長の時系列変動を明らかにしました。その結果、日本周辺海域のプラスチックごみ汚染は、1952年の初検出以降、1970年代までに約800倍に増える「増加期」の後、密度が30年以上殆ど変化しない「停滞期」を経て、2010年代半ば以降、急激に密度が増えた「再増加期」の三つの時期から構成されていることが分かりました(図1)。この結果は、海表面のマイクロプラスチック密度を長期間安定化させる機構が海洋に存在していることを示唆すると同時に、現在のプラスチックごみ流入量がこの許容量を上回っていること示しており、汚染レベルが再び拡大し始め生態系に対するリスクが急激に高まっていることを意味しています。

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図1: 日本周辺海域における浮遊プラスチックごみ密度の時代変遷と先行研究における報告値の比較

 

詳細(PDF:1,068KB)