国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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高知県黒潮牧場ブイ流況データを用いた黒潮流軸位置推定方法の開発

[要約]
 土佐湾周辺海域に設置されている黒潮牧場ブイによる流向、流速観測結果から黒潮離岸距離の推定方法を開発した。


高知県水産試験場 海洋資源科
[連絡先]088-856-1175
[推進会議]中央ブロック
[専門]水産土木
[対象]
[分類]研究


[背景・ねらい]
 黒潮流路の離接岸変動やそれに伴う沿岸への暖水波及等は、土佐湾周辺海域の海洋構造や漁場形成に重大な影響を及ぼす。黒潮の動向は、近年では人工衛星により広域かつ詳細に把握できるようになったが、雲や霧の影響により殆ど情報を取得できない時期や、夏季には黒潮と沿岸水の水温差が無くなり画像からの判断が困難となる場合が多い。
 高知県では土佐湾周辺海域に11基の浮魚礁(黒潮牧場ブイ)を設置し、この内3基で水温、流向、流速、風向、風速を観測している。得られたデータは自動電話応答装置やホームページにて漁業者等県民に「沖の情報」として提供している。
 足摺岬沖及び室戸岬沖の黒潮牧場ブイ(以後、それぞれ黒牧13号、黒牧10号と言う。)で取得した流況データをCTD、ADCP観測結果、衛星水温画像と総合的に解析することで足摺岬及び室戸岬からの黒潮流軸位置を推定する方法を検討した。


[成果の内容・特徴]

  1. CTDによる200m黒潮指標水温16.5℃の位置を推定黒潮流軸位置とし、この際衛星画像から暖水舌部分の観測により指標水温を得たものは除外した。この流軸位置とCTD観測時の直近のブイ流況データ(東西成分流速)との関係を検証した。
  2. 室戸岬沖では推定黒潮流軸位置と黒牧10号での東西成分流速の間には強い相関が認められ、次式が成立した(p<0.01、図1)。 Y=32.855e-0.0032X (r2=0.779)

    (Yは室戸岬沖推定黒潮流軸位置、Xは黒潮牧場ブイ10号東西成分流速)

  1. 以上より、室戸岬沖の黒潮流軸位置は黒牧10号による流況観測値から推定することが可能となった。また、東西成分流速を用いることで黒潮離岸時の土佐湾方向への暖水波及をあわせて評価できるようになった。
  2. 足摺岬沖に関しては、統計的に有意な関係は見られなかった。これは、沖合定線と黒牧13号の設置位置が大きく異なることと(図2)、この海域が黒潮流向の変曲点(日向灘沖の北北東流から本海域周辺で東北東流へ転向)であることが作用しあい、明確な関係がでなかったものと考えられた。今後は都井岬沖や北緯32度線上での離岸距離等日向灘から豊後水道外域における流路を勘案した解析、もしくは黒牧13号に近接した観測点を設けた独自の観測が必要である。

[成果の活用面・留意点]

  • 本法を用いることで、沖合に設置した観測ブイの流況データから海況情報としてほぼリアルタイムで黒潮流軸の離接岸状況を推定することが可能となり、漁業者の漁具・漁法、漁場選択の判断材料を提供することが可能となった。
  • 同様なブイが太平洋沿岸各県(沖縄県、鹿児島県、宮崎県)に設置されていることから、それへの応用が可能となった。
  • 経済的な航路の選択や海難事故や油の流出の際の漂流予測への応用が期待される。

[具体的データ]

図1
図1 黒牧10号東西成分流速と黒潮流軸位置との関係

図2
図2 黒潮牧場ブイと沖合定線位置図


[その他]
研究課題名:海洋構造変動パターン解析技術開発試験
予算区分:特定研究開発等促進事業
研究期間:平成9~13年度
研究担当者:岡村雄吾
発表論文等:なし