国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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表中層トロール網による幼稚魚採集に基づくマイワシ・マサバの加入量水準予測

[要約]
 表中層トロール網を用いた浮魚類幼稚魚の採集手法を確立し、これに基づき、マイワシ・マサバの加入量水準予測を可能にした。


中央水産研究所・生物生態部・資源管理研究室
[連絡先]045-788-7633
[推進会議]中央ブロック
[専門]資源生態
[対象]いわし・さば
[分類]研究


[背景・ねらい]
 マイワシ・マサバは多獲性浮魚類として漁獲可能量が設定されている重要な水産資源であり、資源量の変動予測に基づく適切な資源管理が必要である。そのため、各年級群の加入量をできるだけ早期に把握する手法の確立が望まれていた。
 マイワシ・マサバの加入量水準は、卵・仔魚期ではなく、稚魚期から生後半年~1年後の加入期までの間の生残の多寡により決定されると考えられるが、従来、マイワシ・マサバの幼稚魚を定量的に採集する方法は未確立であり、幼稚魚の沖合域における分布生態についても不明であった。
 本研究は、表中層トロール網を用いた沖合調査により、マイワシ・マサバの幼稚魚を定量的に採集する手法を確立し、幼稚魚採集結果に基づいた加入量予測を可能にした。


[成果の内容・特徴]
 表中層トロール網(図1に曳網イメージ図)によるマイワシ・マサバの幼稚魚採集手法を確立した。調査海域は5~6月の太平洋北西部(黒潮続流~移行域)とした。表中層トロール網(網口25m×25m)は、網口水深が0~25mになるように調整した。曳網速度は対水3.5ノットとした。予備的調査により、昼間における採集効率の低下が認められたので、曳網は夜間のみとした。マイワシでは体長2~9cm、マサバでは尾叉長2~18cmの幼稚魚が採集され、この体長範囲における幼稚魚の定量把握が可能と判断された。なお、本調査の曳網条件では、体長4cm未満の個体並びに成魚についての採集効率は低いと考えられた。
 マイワシ・マサバの幼稚魚が、概ね東経170°までの広域に分布することを明らかにした(図2)。
 マイワシ・マサバの幼稚魚が採集された海域の表面水温は13~21℃であり、マイワシでは表面水温が15~18℃、マサバでは16~20℃の海域において平均採集尾数が多い傾向が見られた。これにより、表面水温帯ごとの各幼稚魚の平均採集尾数を各表面水温帯の面積で重み付け、これを加入量予測の指数とした。1996~2000年における指数は、当歳魚の漁獲加入量水準の変動傾向を良く予測した(図3)。


[成果の活用面・留意点]
 現在、日本周辺のマイワシ・マサバに対しては、各年齢魚の漁獲尾数と自然死亡率を用いたコホート計算により資源量計算が行われている。本調査結果と、それに基づく加入量指数は、0歳魚の豊度を直接推定することにより、コホート計算の0歳魚の量を調整し、資源量推定の精度を向上させている。
 マイワシ・マサバは、資源量水準が低い現状にあって、数年に1度の割合で比較的加入量水準の高い年級群が出現する。この年級群の豊度を早期に把握することが重要であり、本研究での加入量水準予測はその有効な指標になっている。
 1996~2001年における調査は、兵庫県香住高等学校所属調査船・但州丸(499トン)により実施した。本調査は将来にわたる継続実施が望まれており、調査船・装備を含めたサポート体制の確立が必要である。


[具体的データ]

図1

 

図2

図3


[その他]
研究課題名:浮魚類の加入量早期把握法の確立と資源量評価への応用
予算区分 :農林水産技術会議委託プロジェクト研究「データベース・モデル協調システムの開発」
       なお、船舶運航と資源評価への活用に関しては水産庁委託調査「資源評価調査」
研究期間 :平成13年度
研究担当者:谷津明彦・西田 宏・渡邊千夏子・木下貴裕(北水研)・森 賢(北水研)
発表論文等:表層トロールによる小型浮魚類の漁獲特性 2001年度水産海洋学会大会で口頭発表(2001)
 Development of assessment technique for pelagic fish stocks: application of daily egg production method and pelagic trawl in the northwestern Pacific ocean  日本水産学会70周年記念シンポジウムで口頭発表(2001)
 Trajectories of Catch and Stock Abundance of Dominant Small Pelagic Fishes and Common Squid with Some Related Environmental Indices around Japan PICES Scientific Report,18:175-178,(2001)