資源管理型漁具(小型底びき網漁業)が経営に及ぼす影響
[要約]
シャコを対象とした小型底びき網漁業において、小型個体を逃避させることのできる資源管理型漁具(改良網)を開発したが、このような漁具の導入は、資源保護効果の反面、漁獲量減少などが漁業者の経営上の不安となる。
このため「現行網」と「改良網」で水揚げ量・金額等に差が生じるか、統計的な検討を行った。操業時間あたりの操業効率の差をt検定により検討した結果、「改良網」の導入は小型個体逃避による資源保護効果が担保されつつ、水揚げに対するマイナスの影響も過大とはいえず、漁家経営に与える影響はわずかであることから資源保護手段として有効であることが示された。
神奈川県水産総合研究所 企画経営部
[連絡先]0468-82-2312
[推進会議]中央ブロック
[専門]水産経済
[対象]小型底びき網(他の甲殻類)
[分類]普及
[背景・ねらい]
横浜市漁協柴支所所属の小型底びき網漁業はシャコの水揚げが中心となっており、漁業者は操業日数や出荷枚数の制限に取り組むことにより資源管理や価格維持につとめてきた。
また、漁具の網目を拡大することにより、出荷対象とならない小型個体を効率的に逃がすような漁具の開発に取り組み効果をあげてきた。しかし、漁獲物回収時の省力化のため二重袋部分のエンドにファスナーが導入されたことにより、小型個体の逃避効果が減少し、資源保護のために新たな漁具の改良が必要となった。
水総研では、二重袋のエンド部分に角目網を用いた漁具改良を行った結果、小型個体の通過率があがったことから、さらに二重袋全体を角目網で仕立てることで、小型個体の6割が逃避できる改良網を作成することができた(石井他2000)。
このような小型個体をより多く通過させる漁具を導入する場合、資源保護の反面、水揚げ額の減少や操業経費の増加等マイナス要因が生じ、漁家経営に影響を与える可能性がある。そのため、現行網と試験網を用いた場合での漁獲効率の差を試算することにより、新たな資源管理型漁具の導入が、操業に与える影響を明らかにすることとした。
[成果の内容・特徴]
1999年8月、12月、2000年2月の3ヶ月間、柴支所所属の漁業者4経営体に現行網と改良網を用いた操業をさせ、その期間の曳網時間、燃油量、銘柄別水揚げ量、銘柄別水揚げ物単価について調査を行った。
シャコ及び全水揚げ物それぞれの水揚げ量及び水揚げ額を曳網時間で除した「曳網時間あたり操業効率」を求め、この平均値をt検定することにより現行網と試験網との間に操業効率の差の有無があるか判断することとした。
曳網単位時間あたりのシャコ及び全水揚げ物の水揚げ量または水揚げ額について、現行網と改良網との結果に統計的に有意な差があり、かつ現行網が上回っていたのは、2000年2月の曳網単位時間あたりのシャコ水揚げ額の1例のみであり、時期によっては、水揚げ量、水揚げ額に影響が見られる可能性はあるが、ほとんどの場合、実際の水揚げへの影響は少ないことが示された。
[成果の活用面・留意点]
改良網は、経済的な面からも遜色がなく、資源管理型漁具として導入が実用的であると評価できる。
現在、柴支所所属の小型底びき網漁船全船が、9節角目網(無結節網地)を二重袋に採用することが決定している。
[具体的データ]
表2 t検定による客船の曳網時間あたりシャコ水揚げ金額の平均値の差
2000年2月の差は現行網のD丸の時間あたりのシャコ水揚げ金額が、改良網A丸、B丸を下回ったことによるもの。
同じく2000年2月のB丸とC丸との間にも差は、現行網C丸において改良網B丸を上回る水揚げ額があったため。今回の調査において唯一改良網が現行網より効率が下回った結果。
同様にシャコ以外の水揚げ物を含む全水揚げ量、全水揚げ金額についてもt検定を行ったが、改良網と現行網との差は見られなかった。
[その他]
研究課題名:資源管理型漁業経営促進事業
予算区分 :国庫受託
研究期間 :平成11~平成12年度
研究担当者:小川砂郎、石井 洋、江川公明
発表論文等:東京湾の小型底びき網漁業におけるシャコ資源管理型漁具の開発―1
―資源管理型漁具の開発について―,
神奈川県水産総合研究所研究報告,第6号,2000.
東京湾の小型底びき網漁業におけるシャコ資源管理型漁具の開発―2
―資源管理型漁具が操業におよぼす影響について―,
神奈川県水産総合研究所研究報告,第6号,2000.