タカアシガニの種苗生産と稚ガニの長期飼育
[要約]
駿河湾の特産物であるタカアシガニの種苗生産方法を検討した。幼生飼育については、餌料、水温条件が把握され、小型容器移し替え方式が好結果をあげた。稚ガニは最長3年、甲長12cmまで飼育でき、種苗生産の手掛かりを得た。
静岡県農林水産部 栽培漁業センター
[連絡先]0559-39-0804
[推進会議]中央ブロック
[専門]種苗生産
[対象]他のかに類
[分類]研究
[背景・ねらい]
タカアシガニは水深300mの深海に棲む世界最大のかにである。本県駿河湾では特産物として利用されているが、近年漁獲量が減少し、資源の増殖策が望まれている。しかし、天然での生態が不明で、飼育に関する知見も極めて少ない。本種の種苗生産、放流を目指し、幼生期、稚ガニ期の飼育方法の開発を行った。
[成果の内容・特徴]
- 12~1月に漁獲された抱卵親ガニを入手し、水温約15℃で飼育することにより、外卵の発生が進んでいた一部のものから1~3月にふ化幼生が得られた(抱卵期間が1年近いのでふ化に至らないものも多い)。1親当たりの幼生数は約100万尾であった。
- 幼生はプレゾエア(短時間)→ゾエアI期→ゾエアII期→メガロパ→稚ガニと脱皮成長した。その期間は、ゾエアI、II期各8日、メガロパ期約1月、稚ガニまで約1.5月(水温18℃)であった。
- ゾエア期は水温15~20℃、アルテミアまたはシオミズツボワムシを餌料として順調に成長した。メガロパ期は水温15~18℃、アルテミアと貝肉を餌料として稚ガニまで飼育できた。
- 幼生は遊泳性が弱く沈下するため、1リットル前後の小型容器を用い、飼育水に抗生物質を添加し、毎日幼生を移し替えて容器や飼育水、餌料を更新する飼育方法が生残率や作業性の上で優れていた。それに対し、移し替えを行わない大型水槽や流水ネット式飼育では、幼生の沈下により底部の汚れ(糞、死亡個体等)との分離、除去が困難となり、生残率が極端に低く、メガロパ以前にほとんどが死滅した。
- 現在の飼育方法においても、ゾエア期に比べてメガロパ期の生残率が低く不安定であり、今後の検討が必要である。
- 稚ガニはサクラエビ砕片を餌料とし水温16~17℃で流水籠飼育を行った結果、最長で3年間生存し、15齢(齢数は稚ガニ1期を1齢とし脱皮ごとに加齢する)、甲長約12cmに成長した。
- 稚ガニの脱皮間隔は初期には20~30日と短く、成長に伴って長期化した。1年間で10回脱皮して甲長約40mmに達した。1回脱皮当たりの成長率は約1.3であった。
[成果の活用面・留意点]
種苗生産に当たっては、小型容器飼育法をベースに大量飼育可能な方法を開発すること、稚ガニ飼育では放流サイズの検討も必要となってくる。なお、本種の大量飼育には低温性、清浄性を特徴とする海洋深層水の活用が有望視される。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:タカアシガニの飼育条件に関する基礎的研究
予算区分:県単独事業
研究期間:平成9~13年度
研究担当者:渥美敏
発表論文等:静岡県水産試験場研究報告 第34号(1999)、同37号(印刷中)