国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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春期カタクチイワシシラスの漁況予測

[要約]
 現在のイワシ類資源はカタクチイワシが高水準で推移していて、春期シラス漁でもカタクチイワシシラス主体であることから、この来遊量が推定できれば精度の高い漁況予報を提供できる。沖曳きが可能になった1994年以降、常磐~房総海域におけるカタクチイワシ成魚産卵準備群の資源量指数を用いることにより、精度の高い予報を出せることが明らかになった。


神奈川県水産総合研究所 資源環境部
[連絡先]0468-82-2313
[推進会議]中央ブロック
[専門]資源評価
[対象]いわし
[分類]研究


[背景・ねらい]
 相模湾のシラスは神奈川ブランドにも指定され地域の重要水産物になっていることから、シラス漁業者に対し精度の高い予報を提供することは漁業経営上重要である。神奈川県水産試験場(現神奈川県水産総合研究所)では、昭和58年から隔月で漁況予報「いわし」を発行し、シラスをはじめとするイワシ類を漁獲対象とした漁業者等に情報提供を行ってきているが、精度の高い予報を出すことが従来からの課題であった。そこで、春期(3~6月)におけるカタクチイワシシラス(以下、カタクチシラスという)漁獲量の予測根拠を新たに見出すこととした。


[成果の内容・特徴]
 本県のカタクチシラス漁獲量は、1993年まで約20トン(標本船3ヶ統)と横ばいで推移していたのが、1994年以降大きく変動するようになった。これは、それまで県海面漁業調整規則で「錨止め漁法」に限定され、ごく沿岸でしか操業できなかったのが、この年から解除され従来よりも沖で操業できるようになり、純粋にシラスの来遊量に比例した漁獲量をあげるようになったからだと思われる。
 そこで、1994~2000年における、本県春期カタクチシラス漁獲量(y:トン)と11月~翌年3月の常磐~房総海域におけるカタクチイワシ大型成魚(体長12cm以上)産卵準備群資源量指数(x)との関係を調べた結果、次式により高い相関が見られた。


 y= -4E-07x2+ 0.0075x+ 16.745  (R2= 0.95)


 このことにより、カタクチイワシ資源が高水準期における春シラス漁の漁獲量については、カタクチイワシ大型成魚産卵準備群資源量指数*を根拠に予報できると共に、この時期のカタクチシラスが、冬春期、本邦太平洋側沿岸を南下回遊する大型成魚によりもたらされていることが明らかになった。なお、資源量指数が高かったにも係わらず漁獲量が伸びなかった(1999,2000年)理由については現在のところ明らかではないが、可能性の一つとして密度効果が考えられる。
*カタクチイワシ大型成魚産卵準備群資源量指数
茨城県水産試験場により1990年から継続して算定されている。概ね毎年11月~翌年3月までの常磐~房総海域における大中型まき網カタクチイワシ漁獲物(標本船)のうち大型成魚が50%を越えた期間(尾数換算)の緯度・経度10分升目毎のまき網1日1投網平均漁獲量の和。


[成果の活用面・留意点]
 本件の成果により、特にシラス船曳網漁業者に対し精度の高いシラス予報を提供することができ、当該漁業者の漁業経営の安定に充分寄与し得るものと考える。
 ただし、本件は、カタクチイワシ資源の高水準期に適用できる根拠であり、将来、当該資源が低水準になった時は、新たな根拠を見出す必要があると思われる。(低水準期になると、毎年大型成魚の資源量指数値が0になる可能性がある)


[具体的データ]

図1
図1

図2
図2 


[その他]
研究課題名:いわし類漁業資源調査
予算区分 :国庫受託
研究期間 :平成7年~
研究担当者:舩木 修
発表論文等 :なし