油汚染モニタリング生物としてのサザエの適性
[要約]
流出油の中・長期影響を監視するための指標生物として、魚類及び貝類の有用性を検討した。石油中で有害性が問題となる多還芳香族炭化水素(PAHs)を混入した餌を投与した結果、マダイはピレン及びクリセンの吸収がほとんど認められなかったが、サザエでは多くの吸収が認められこのことから、サザエが油汚染モニタリング生物として適していることが明らかであり、中・長期影響調査に使用できることを解明した。
瀬戸内海区水産研究所 環境保全部 水質化学研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議] 瀬戸内海ブロック
[専門] 漁場環境
[対象] 貝類
[分類] 研究
[背景・ねらい]
1997年1月に日本海でナホトカ号の重油流出、7月に東京湾でダイアモンドグレース号の原油流出事後が続発した。流出したこれらの油が沿岸環境にどの程度残存するのか検討した例は少なく、特に最も影響を受ける海産生物での残留を検討した例は少ない。このため、海産生物に及ぼす流出油の長期的影響を監視するための手法を開発する目的で、指標生物の選定、指標生物中での石油成分(特にPAH)の残留性を検討した。
[成果の内容・特徴]
- PAHsを含む配合飼料で10日間飼育したマダイの肝臓からは、ビフェニル、ジベンゾチオフェン等のPAHsが10 ng/g wet weight前後検出されたが、4環の分子量の大きいクリセン及びピレンは全く検出されなかった。(図1)
- PAHs及びレシチン(摂餌誘因物質)を含む濾紙で10日間飼育したサザエの肝臓(中腸腺)からは、高濃度のクリセン(平均で160 ng/g wet weight)及びピレン(平均で20ng/g wet weight)が検出された。(図2)
- PAHsの投与を中止すると、マダイ及びサザエとも肝臓中濃度が急激に減少した。これはマダイ及びサザエがPAHsの代謝能を有するかあるいは排泄速度が比較的早いことが考えられる。
- サザエに残留したクリセンの半減期が、他の二枚貝類のそれよりも短いことから、油汚染が解消すれぱ他の貝類に比較してサザエ体内のクリセンは速やかに排泄されるものと考えられる。
- これらのことから、より長期に環境に残留すると考えられる4環のクリセン及びピレンを高濃度に蓄積するサザエが、環境での流出油の残留を監視する上で有用な生物と考えられる。
- さらにサザエは魚類に比較して定着性であることから、魚類に比較して汚染地点の経時的変化を把握するのに適していると考えられる。
[成果の活用面・留意点]
今後、石油類の流出事故が発生した場合の環境影響評価を行う上で、監視すべき生物としてサザエを推奨することができる。しかし、ここではPAHsそのものを対象として分析を進めてきたが、より毒性(発ガン性など)が強くなるこれらPAHsの代謝物の動態がまだよくわかっていないため、PAHsの体内濃度のみで水産物の安全性を考えてよいかどうか、今後検討を要する。
[具体的データ]
図1.PAHs添加飼料投与マダイの肝臓中PHAs濃度
図2.PAHs添加餌料投与サザエの肝臓中PHAs濃度
[その他]
研究課題名:流出油が沿岸・沖合生態系に及ぼす中・長期的影響の解明に関する研究
予算区分 :公害防止〔流出油〕
研究期間 :平成10年度~平成13年度
研究担当者:小山次朗・池田久美子
発表論文等:日米コモンアジェンダ(発表予定)