国立研究開発法人 水産研究・教育機構

お問い合わせ

麻痺性貝毒原因プランクトンのシスト計数法の発明

[要約]
海底泥中に存在する有毒プランクトンのシストを蛍光染色することにより簡便かつ迅速に計数する方法を発明し,特許を取得した。


瀬戸内海区水産研究所 赤潮環境部
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門]  赤潮
[対象]  藻類
[分類]  調査

 

[背景・ねらい]
有毒プランクトンの発生による麻痺性貝毒が日本各地で頻発し,ホタテガイ・アサリ・カキ等の出荷規制などにより水産業に深刻な影響が広がっている。貝毒は,海底泥中で休眠していた有毒プランクトンシスト(高等植物の種に相当)が発芽して生じた遊泳細胞が増殖し,それを貝が捕食することによって起こる。したがって,海域における貝毒発生のモニタリングを行う上で,シストの現存量や分布を明らかにすることは重要な課題である。しかし,海底泥中には多くの泥粒子やデトライタスが存在するため,その中のシストを通常の光学顕微鏡を用いて計数することは非常に困難であるばかりでなく,多大な時間と労力を必要としている。そこで,簡便かつ迅速なシスト計測法の開発を試みた。


[成果の内容・特徴]

  • シストの計数法を確立するためには,まず対象となる有毒プランクトンAlexandrium tamarenseのシストが大量に必要となる。
  • そこで,まずシストの大量形成法を検討したところ,ブルーム末期の現場海水を濃縮し,15℃,弱光下で培養することで1ml当たり100~1000個のシスト形成に成功した。
  • 次に,蛍光染料によるシストの染色条件を検討した。
  • その結果,前処理としてグルタールアルデヒドによる固定と固定後のメタノール処理が必要であった。
  • 蛍光染料として9種の物質を検討した結果,染色性が最も高くかつ低濃度でも有効であること,蛍光色が黄緑で検出しやすいことから,プリムリンが最適であることが判明した。
  • 以上の結果に基づき,蛍光染色によるシスト染色法を確立した(図1,2)。
  • 本方法によって天然の海底泥中に存在するシストを染色したところ,染色率は100%であることが判明し,この方法が現場試料にも適用できることが確認された。
  • 本発明は「藻類のシストの定量方法」として特許が取得できた(平成10年7月31日:特許第2807775号)。


[成果の活用面・留意点]
本成果は,平成10年度から開始された特別研究「麻痺性有毒プランクトンの発生予察手法の開発」に引き継がれ,貝毒予察技術開発の基礎的知見を得るための有効な手法として活用されている。また,本手法は水産庁漁場資源課事業「有害藻類対策支援検討事業」の一環として開催される赤潮・有毒プランクトンのシスト同定研修会において,各道府県の研修生に技術指導がなされている。これら一連の研究・事業研修会により,都道府県担当者の有毒プランクトン発生モニタリング技術が高度化されるものと期待される。また本手法はわが国のみならず諸外国においても有害・有毒プランクトンのシスト計数法として採用されている。


[具体的データ]

図1
図1 Primuline蛍光染色法の手順

 

図2

図2 蛍光染色法によって染色されたAlexandriumシストの顕微鏡写真
A:通常の光学顕微鏡          B:落射蛍光顕微鏡(B励起)


[その他]
研究課題名:Alexandrium属有毒プランクトンの生理・生態の解明
予算区分 :水産振興
研究期間 :平成7~9年度
研究担当者:山口峰生,板倉 茂,小谷祐一
発表論文等:
A rapid and precise technique for enumeration of resting cysts for Alexandrium spp. (Dinophycese) in natural sedimentals, Phycologia, 34, 207-214, 1995.
広島湾海底泥における有毒渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseおよびAlexandrium catenellaシストの現存量と水平・鉛直分布,日水誌,61, 700-706, 1995.
Distribution and abundance of resting cysts of the toxic dinoflagellates Alexandrium tamarense and A. catenellain sediments of the Eastern Seto Inland Sea, Japan. Harmful and Toxic Algal Blooms, 1777-180, 1996.
他3編