国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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海産自由生活性線虫類の培養技術開発

[要約]
海産自由生活性線虫類はメイオベントスの中で最も優占する動物群で,底泥の環境や浄化能力を評価する故で重要である。その生態的な研究を進めるにあたり培養方法の検討を行った結果,3種類の線虫類の培養が可能となった。


瀬戸内海区水産研究所 瀬戸内海海洋環境部 生物環境研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門]  低次生産
[対象]  線虫類
[分類]  研究


[背景・ねらい]
 海産自由生活性線虫類は底泥中,特に沿岸浅海域の有機物の豊富な底泥に高密度に生息する。その生活史や生態的機能を明らかにすることは底泥の物質循環の解明に重要である。本研究においては,海産自由生活性線虫類の室内培養実験法を確立し,実験生態学的な取り扱いを可能とすることを目的とした。


[成果の内容・特徴]

  • 細菌培養用の培地を改良した液体培地に付着珪藻Licmophora sp.を少量添加する方法を用いてMicrolaimus sp.,Prochromadorella sp.,Spiliphera sp.の3種の培養に成功した。
  • Microlaimus sp.の世代時間は20℃の培養条件で約20日であるのに対し,より大型の線虫類であるProchromadorella sp.とSpiliphera spの世代時間は約35日と50日であった。
  • Microlaimus sp.の雌1個体あたりの産卵数は40日間で最大約100個であるのに対し,Prochromadorella sp.とSpiliphera sp.ではそれぞれ42,17であった。
  • Microlaimus sp.は砂泥域から,Prochromadorella sp.とSpiliphera sp.は泥分率の高い沿岸海底から分離した線虫類であるが,その口腔の形態から同じepigrowth feederと考えられ,この培養方法はこの食性の線虫類の培養に有効ではないかと考えられた。
  • Microlaimus sp.の無菌化した仔虫を用いた培養実験により,無菌条件下では付着珪藻Licmophora sp.が添加されていなくても仔虫は成長できないことが明らかとなった。これらのことからMicrolaimus sp.は付着珪藻ではなく,バクテリアを餌としていると推定された。


[成果の活用面・留意点]

  • 簡便な培養方法を用いて種々の線虫類の培養が可能となり,その生活史や生態が明らかとなる。
  • 線虫類の生態を解明するめの室内実験が可能となる。


[具体的データ]

表1
表1 培地組成

 

図1
図1 Microlaimus sp.の胚発生
1.分割前の受精卵 2.胞胚期
3.Tadpole stage  3.Vermiform stage

 

表2
表2 海産自由生活性線虫類3種の生活史概要


[その他]
研究課題名:浅海域に生息する自由生活性線虫類の生態学的な研究
予算区分 :経常
研究期間 :平成8~10年度
研究担当者:辻野 睦
発表論文等:
・辻野 睦・内田卓志・玉井恭一,海産自由生活性線虫類Microlaimus sp.(Chromadorida: Microlamidae)の培養方法と生活史,Benthos Research, 52: 9-14, 1997
・辻野 睦・有馬郷司・内田卓志,海産自由生活性線虫類Prochromadorella sp.とSpiliphera sp. (Chromadorida: Chromadoridae) の培養条件下での生活史,Benthos Research, 53: 89-93, 1998