生物モニタリングシステムの構築(カツオ肝臓中有害物質濃度の生息水域による変動)
[要約]
沖合域の有害物質による海洋汚染を監視する手法を開発するため,カツオを指標生物候補としてその肝臓中に含まれる有害物質(有機スズ化合物濃度等)を測定した。その結果,春季に日本近海に来遊するカツオの肝臓中有機スズ化合物濃度が,秋季に日本近海から南下するカツオのそれより低く,採集時期と水域を考慮することによりモニタリング精度が向上することが明らかになった。
瀬戸内海区水産研究所環境保全部水質化学研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門] 漁場環境
[対象] カツオ
[分類] 研究
[背景・ねらい]
有害物質の生物濃縮現象に着目した生物モニタリング手法が考案され,イガイ等の生物について現場への適応が試みられているが,その適応範囲は沿岸域にとどまっている。本課題は,有害物質による海洋汚染を監視するために,生物を利用した従来の方法を多様化し,イカ類やカツオなどの生物を併用することにより沿岸から近海および沖合域の海洋汚染監視にも適用できる生物モニタリングシステムを確立することを目的とする。
[成果の内容・特徴]
- カツオの体重あるいは肝臓脂肪含有量と肝臓中TBT濃度との間には一定の関係は認められず(図1),肝臓中TBT濃度は生息環境の状況を反映してることが示唆された。
- 10~11月に漁獲された南下群カツオの肝臓中TBTおよびDBT濃度は,5月に漁獲された北洋群カツオに比べて高かった(図2)。この傾向は,有機塩素系化合物およびPCBsについても認められた。
- カツオが本州東岸沖合域に秋まで滞留している間にこれらの有害物質を蓄積すると考えられ,我が国沿岸沖合域における有害物質濃度が外洋に比較して高いことが回遊に伴った濃度変化から示唆された。
- TBTとその代謝物のDBTの比は北上群に比べて南下群で大きく,取り込まれたTBTが代謝された後にDBTとして蓄積されることが明らかであった。新たにTBTによって汚染されたカツオではDBT/TBT比が大きく,この比が汚染履歴の指標となることが示唆された。
- これらの結果から,カツオ肝臓中濃度は海域の汚染実態を反映していると考えられ,カツオ採集時期および水域を変えることにより本州東岸域を水域区分して海洋汚染状況を監視できることが明らかになった。
[成果の活用面・留意点]
- 海洋汚染の有害物質汚染を監視するために従来から行われている,イガイを指標生物とした沿岸環境の生物モニタリングに加え,カツオを指標生物にすることによって,沿岸から沖合域までの地球環境レベルでの化学物質汚染の生物モニタリングが可能となる。
- 指標生物種による濃縮率の差異などを検討し,モニタリング精度の向上のための研究が必要である。
- 検出される濃度は必ずしも人間に有害となるレベルではないが,漁獲物の安全性の側面からも検討する必要がある。
[具体的データ]
図1 カツオ肝臓中TBT濃度と体重(A)及び肝臓脂肪含量(B)の関係
図2 カツオ肝臓中TBTおよびDBT濃度(ng/g)
(二平(1996)の分類によるB群カツオ,図中の数字は濃度を示す)
[その他]
研究課題名:指標生物による有害物質海洋汚染の監視手法の高度化
予算区分 :公害防止〔指標生物〕
研究期間 :平成9~13年度
研究担当者:池田久美子,小山次朗
発表論文等:
・Organotin compounds and polychlorinated biphenyls of livers in aquid collected from coaastal waters and open oceans. Environmental Pollution, 96, 217-226(1997)
・本州沖合域に来遊するカツオの有機スズ化合物蓄積特性,平成10年度日本水産学会秋季大会講演要旨集(1998)