国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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天敵ウイルス利用によるヘテロシグマ赤潮防除技術の確立

[要約]
我が国の代表的な赤潮原因藻であるヘテロシグマに対して特異的殺藻性を持つウイルスの培養系ならびに凍結保存技術を確立し,国内特許を取得した。


瀬戸内海区水産研究所 赤潮環境部 赤潮生物研究室
[連絡先]  0829-55-0666
[推進会議] 瀬戸内海ブロック
[専門]   赤潮
[対象]   プランクトン ウイルス
[分類]   研究


[背景・ねらい]
水産増養殖の場において、養殖魚介類に被害を与える赤潮プランクトンを除去するための技術(殺藻法)の開発が近年求められている。こうした背景の下、当該研究グループは、代表的な赤潮原因藻ヘテロシグマ(Heterosigma akashiwo)を対象生物とし、自然生態系内にすでに存在している「赤潮を除去する方向に働く生物学的因子」であるウイルスを利用した環境にやさしい赤潮防除技術の確立を目的として研究を行った。


[成果の内容・特徴]

  • 西日本各地の沿岸域から採取した海水試料から、ヘテロシグマ細胞に対して殺藻性を持つ球形2本鎖DNAウイルス(HaV:Heterosigma akashiwo virus)を分離した(図1)。
  • HaVは、宿主であるヘテロシグマの細胞質内で増殖し、感染から約30-33時間後には1細胞あたり約770個の子孫ウイルスを環境中に放出した(図2)。
  • HaVのヘテロシグマに対する殺藻特異性はきわめて高かった(表1)。また、HaVに対して抵抗性を示す宿主株も存在した。
  • HaVは、10-20%DMSO添加後、液体窒素中に浸析することで保存可能であった。
  • 本発明は「赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうるウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの保存方法」として特許が取得できた(平成11年7月23日:特許第2955657号)。


[成果の活用面・留意点]
本成果は,経常研究「赤潮プランクトンの出現・消滅機構の解明(平成10~14年度)」並びに経常研究「動植物プランクトン等に対するヘテロシグマ赤潮殺藻ウイルス(HaV)の影響に関する研究(平成11年度)」に引き継がれ,赤潮防除技術としての実用化を図るための研究が進められている。また,本成果は、ヘテロシグマ以外の殺藻性ウイルス研究の速やかな進展を図る上できわめて強力な支援になるものと期待される。


[具体的データ]

図1

図1.HaVによるHeterosigma akashiwoの殺滅実験。左はウイルス接種前の、右は接種後2日目のH.akashiwo培養。右上はHaVのネガティブ染色像(バーは200nm)。

 

図2

図2.感染多重度2.04でHaV01を接種(矢印)した際のHeterosigma akashiwo細胞密度の変化。実験終了時(47時間後)の培養中のHaV密度は9.8×107に達した。

 

表1

 

[その他]
予算区分:経常
研究期間 :平5年~9年「沿岸域における赤潮鞭毛藻と珪藻の種交替過程の解明」、平10~14年「赤潮プランクトンの出現・消滅機構の解明」
研究担当者:山口峰生,板倉茂,長崎慶三
発表論文等:

  • Isolation of a virus infectious to the harmful bloom causing microalga Heterosigma ahashiwo, Aquat. Microb. Ecol., 13, 135-140, 1997.
  • Intra-species host specificity of HaV (Heterosigma akashiwo virus) clones. Aquat. Microb. Ecol., 14, 109-112, 1998.
  • 殺藻性ウイルスによる赤潮防除の可能性,Microb. Environ.,13,109-113,1998.
  • Effect of temperature on the algicidal activity and the stability of HaV (Heterosigma akashiwo virus), Aquat. Microb. Ecol., 15, 211-216, 1998.
  • Virus production in Phaeocystis pouchetii and its relation to host cell growth and nutrition, Aquat. Microb. Ecol., 16, 1-9, 1998.
  • Growth characteristics of Heterosigma akashiwo virus and its possible use as a microbiological agent for red tide control. Appl. Environ. Microb., 65, 898-902, 1999.
  • Cryopreservation of a virus (HaV) infecting a harmful bloom causing microalga. Heterosigma akashiwo (Raphidophyceae). Fisheries Sci. , 65, 319-320, 1999.
  • Cluster-analysis on algicidal activity of HaV clones and virus sensitivity of Heterosigma akashiwo (Raphidophyceae), J. Plankton Res., 21, 2219-2226, 1999.