ヘテロカプサ赤潮の発生機構モデルの構築
[要約]
カキやアコヤガイなど、水産上重要な貝類を低密度で殺すヘテロカプサ(渦鞭毛藻類)の特異な生理・生態を野外調査と室内実験によって解明し、それらの結果をもとにヘテロカプサ赤潮の発生機構モデルを構築した。
瀬戸内海区水産研究所
赤潮環境部 赤潮生物研究室
赤潮環境部 有毒プランクトン研究室
瀬戸内海海洋環境部 生産環境研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議] 瀬戸内海ブロック
[専門] 赤潮
[対象] プランクトン
[分類] 研究
[背景・ねらい]
近年、貝類だけを特異的に殺す渦鞭毛藻類の一種Heterocapsa circularisquama(以下、ヘテロカプサ)が西日本の多くの海域で発生し、カキ、アコヤガイ、アサリなど、水産上重要な二枚貝が大きな被害を受けている。被害の軽減を図るためには、本種赤潮の発生予測を行い、それに基づいた適切な対策をとることが必要である。そこで、今回は発生予測手法の開発に不可欠な本種の生理・生態を解明し、発生機構モデルを構築した。
[成果の内容・特徴]
- ヘテロカプサは従来型赤潮原因種に比較して、(1)高温(30℃)・高塩分(30psu)を好み、また低温(10℃)では増殖しない(図1)、(2)少量の栄養物質で増殖可能である、(3)種々の有機リンを利用可能である、といった生理学的特徴がある。
- 本種の越冬形態は遊泳細胞かテンポラリーシスト(一時的なシスト)であり、いずれの形態をとるかは温度に依存していると推定される。
- 本種は、(1)他の鞭毛藻類を殺したりそれらの増殖を抑制したりする、(2)カイアシ類や有鐘繊毛虫類などの動物プランクトンに捕食される、(3)殺藻細菌に対して従来型赤潮原因種より高い耐性を持つ、などの生態学的特徴を持つ。
- 強風等による海水の鉛直混合は、底層の栄養塩やテンポラリーシストを上層へ移送し、本種赤潮発生の引き金となる可能性がある(図2)。
- 上記から図3のような本種赤潮の発生機構モデルを構築した。すなわち、海水の鉛直混合によって栄養塩類やテンポラリーシストが上層に運ばれ、その後、海況が安定し、高温・高塩分状態が続き、競合種や捕食種が少ない場合に本種赤潮が発生する。
[成果の活用面・留意点]
本成果によって、ヘテロカプサ赤潮の発生機構はほぼ解明された。現在、これらの成果をもとに、発生予測指標を抽出し、発生予測手法の開発を進めている。
[具体的データ]
図1種々の水温・塩分に対するヘテロカプサの増殖速度
図2英虞湾におけるヘテロカプサの消長と各層水温 (矢印は鉛直混合が起きた時期を示す)
図3ヘテロカプサ赤潮の発生横構モデル
[その他]
研究課題名:渦鞭毛藻・ラフィド藻等による新型赤潮の発生機構と出現予測技術の開発に関する研究
予算区分:公害防止(新型赤潮)
研究期間:平成6~10年度
研究担当者:内田卓志、神山孝史、山口峰生、長崎慶三、板倉茂、小谷祐一、松山幸彦
発表論文等:
- 1992年に英虞湾において発生したHeterocapsa sp.赤潮発生期の環境特性とアコヤガイ斃死の特徴について、日本水産学会誌、61,1995
- Growth and grazing responses of tintinnid ciliates feeding on the toxic dinoflagellate Heterocapsa circularisquama, Mar. Biol., 128, 1997
- Effect of temperature and salinity on the growth of the red tide flagellates Heterocapsa circularisquama (Dinophyceae) and Chattonella verruculosa (Raphidophyceae) , J. Plankton Res., 19, 1997