海洋における“サブメソスケール”の流れと水塊の変化 ─三陸沖の渦の集中観測から─
公表日 2021年 6月 5日
研究実施者:水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部 伊藤大樹
本研究では、海洋において人工衛星や船舶における観測例の少ない“サブメソスケール”の現象に着目し、水塊(水温・塩分など同じ特性をもった海水)の空間構造がどう変化していくかを調査船による集中観測で明らかにしました。
気象と同じように、海洋にも低気圧・高気圧の性質をもった渦が存在します。海洋の渦はメソスケール(百〜数百km)と呼ばれる大きさの流れで、現在では人工衛星によって常時モニタリングが可能です。本研究では、メソスケールよりさらに小さな(数〜数十km)海洋現象で観測例の少ない “サブメソスケール”の流れに着目し、調査船を用いて渦のまわりの集中観測を行いました。
観測では、三陸沖の高気圧性の渦の南側を、水温・塩分と流速を測りながら南北方向に約24時間で5度横切る調査を行いました(図a, b)。観測された水温・塩分の断面をみると(図c, d)、表層に高温・高塩分の水塊、その下には表層と比べて低温・低塩分の水塊が分布しています。そして、密度の等値線(黒線)は渦の中心(北側)に向かって深くなっていることがわかります。これは、渦の表層の温かくて軽い水が密度の等しい面を押し下げているためです。海洋の高気圧性渦は、周りと比べて軽い水を中心にもち、密度面は下に凸のお椀型をしています。観測では、密度の傾斜が大きく、流れの強い渦の南端を捉えています。
深さ300~700mの層には、低温・低塩分の小さな水塊が複数あります(A~D)。これは、観測した調査海域より更に北に位置する亜寒帯域を起源とする水塊の特性をもっていました。この亜寒帯の水塊が、渦のまわりに巻きつきながら、サブメソスケールの大きさですばやく運ばれている様子が、観測した全ての断面で捉えられました。サブメソスケールの水塊は、高気圧性渦の西向きの流れ(図b; 青矢印)で東西に引き伸ばされ、南北に押し縮められ(赤矢印)ながら、水塊がより小さなスケールへと変化している途中でした。これらの水塊は流れによってさらに小さくちぎられていき、マイクロスケール(数cm~数m)の混合を促す可能性を示しました。水塊は酸素や二酸化炭素などの溶存ガスや、植物プランクトンの餌となる栄養塩などの物質を運ぶため、このような流れや水塊の輸送、変形、混合の研究は、資源や漁場環境の理解において重要な役割を担っています。
この研究成果は『Journal of Oceanography』の掲載に先立ち、2021年6月5日にオンラインで公開されました(https://link.springer.com/article/10.1007/s10872-021-00607-4)。