国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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捕食者の保護がウニの磯焼けから藻場を保全する 我が国初の事例研究

公表日 2021年4月25日

 

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 水産基盤グループ 川俣 茂ほか


 温暖化が進み、ウニの磯焼け状態が蔓延化した沿岸域において、藻場が広範囲に維持される特異な小湾を見出し、投石礁の設置と漁獲規制によるイセエビの増加と大型化が、捕食によるウニの減少と藻場の維持に寄与していることを明らかにしました。

 世界各地の沿岸で、生産力の高い藻場が失われ、ウニの優占する磯焼け場へと置き換わりつつあります。その理由として、ウニの捕食者の乱獲が捕食から解放されたウニの大量発生と磯焼けを引き起こすとする説があります。この仮説は、海洋保護区での研究が進んだ海外では、多くの全面禁漁区で捕食者の増加→ウニの減少→藻場の回復という一連の事実により検証され、広く認められていますが、小規模な保護区しかない我が国では否定的に考えられてきました。こうした中で、ウニの磯焼け状態が蔓延化した高知県沿岸において、湾全体がイセエビ保護区に指定されている小湾(約0.3 km2)で藻場が広範囲に維持される特異な事例を見出しました。

 当保護区では、イセエビ漁の自主規制のほか、大規模な投石礁の設置が行われていますが、イセエビ漁は全面的に禁止しておらず、分割した領域で共同操業が年1回ずつ行われています。

 本研究により、(1)イセエビの日中の隠れ場は天然では少なく、投石礁が主要な隠れ場になっている、(2)イセエビは夜間、隠れ場とその周辺のウニを捕食して、ウニの少ない領域を形成する、(3)イセエビの活発な索餌範囲は隠れ場から100 m以内で保護区内に留まる、(4)イセエビの生息数は、年1回行われる漁により大幅に減少しても、翌年には回復する、(5)保護区には超大型のイセエビも生息し、その割合は少ないが、ウニの主要な捕食者になっている、ことなどを明らかにしました。

 本研究は、科研費(KAKENHI 26450251)の助成と水産庁委託事業「藻場回復・保全技術の高度化検討調査」により実施しました。

この研究成果は、国際的な生態学雑誌『Ecological Applications』に、2021年4月25日、オンラインで公表されました。https://doi.org/10.1002/eap.2364

図
保護区の外では、日中、岩陰に隠れているウニ(左上)が、夜間岩の表面に出て付着生物をかじりとる(右上)ため、大型海藻は生育できませんが、保護区内のイセエビの隠れ場周辺では、ウニが非常に少なく、海藻が繁茂します(左下)。右下は係留ウニを捕食する大型イセエビのタイムラプス撮影の映像例です。