海藻の窒素含量の低下が植食性端脚類の生残・成長・再生産に及ぼす影響 ~貧栄養化の影響把握に向けて~
公表日 2021年2月24日
研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 首藤宏幸ほか
海藻の窒素含量の低下がそれを食べる植食性端脚類に及ぼす影響を調べた結果、端脚類の成長と産卵を抑制することが確認されました。このことは、海藻の窒素含量を低下させる貧栄養化が、藻場の植食性端脚類の生産量を低下させる可能性を示唆します。
ノリの色落ち被害により顕在化した瀬戸内海の貧栄養化は、藻場にも何らかの影響を及ぼしている可能性があります。例えば、広島湾のアオサ類の窒素含量は、海水中の溶存無機態窒素濃度の減少を反映して、近年、低下しています。また、窒素不足と考えられる色落ちした天然の海藻(ワカメなど)も目につくようになってきました。窒素は動物にとって必須の栄養素であるため、海藻の窒素含量の低下は、それを食べる植食動物にも悪影響を及ぼすことが予想されます。
そこで本研究では、藻場の典型種で魚の餌としても重要な植食性端脚類(海に多く生息する小型の甲殻類でヨコエビなどの仲間)のAmpithoe tarasoviを、窒素含量を変えたアナアオサを餌として20℃で飼育し、その生残・成長・再生産過程を調べました。その結果、アオサの窒素含量の低下は端脚類の生残率には影響しなかったものの、成長と産卵を抑制することがわかりました(図1)。特に、産卵する雌の個体数や産卵数・産卵回数を大きく減少させました。したがって、餌の窒素含量の低下は次世代の子供の数の急激な減少につながる可能性があります。
今回の結果は、貧栄養化が海藻の窒素含量を低下させることにより植食性端脚類の生産量の低下をもたらす可能性を示しています。植食性端脚類は、一次生産者と高次消費者をつなぐ重要な役割を果たしているため、端脚類の生産量の低下は、藻場の生物群集の構造変化にもつながると考えられます。
本研究の一部は、水産庁委託事業「栄養塩の水産資源に及ぼす影響調査」により実施されました。
この研究成果は、『Journal of Experimental Marine Biology and Ecology』2021年6月号の掲載に先立ち、2021年2月24日付けのオンライン版に掲載されました。https://doi.org/10.1016/j.jembe.2021.151543