国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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ウイルス性コイ浮腫症原因ウイルスの全ゲノム解析

公表日 2021年4月22日

 

研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 病理部 診断グループ 米加田 徹


 ウイルス性コイ浮腫症の原因ウイルスであるCarp edema virus(CEV)の全ゲノム配列を世界で初めて解読しました。本情報は、CEVが属する魚類ポックスウイルスの遺伝学的特徴の理解にも繋がります。

  ニシキゴイは、観賞魚としてアジアやヨーロッパなどで特に人気があります。ウイルス性コイ浮腫症(CEVD)は、1970年代半ばに日本の養鯉場で初めて確認され,現在では世界中で問題となっています。本症に罹患したコイは遊泳不活発になり,池の底に集まり次第に横転し,眠ったような症状を呈します。塩水浴による治療が効果的ですが,重篤化すると斃死することもあります。原因ウイルス(CEV)はポックスウイルス科に属し、二本鎖の線状DNAゲノムを有しており、成熟粒子は卵形ないし楕円形の形態を示します。これまで部分的な遺伝子配列は分かっていましたが,全ゲノム配列は不明なままでした。

 本研究では,まずCEV感染魚から超遠心法により精製したウイルス粒子をゲノム解析に用いました。遺伝子配列の解読には,非常に長い遺伝子断片を解析可能なMinIONという装置を用いました。取得された遺伝子配列を繋ぎ合わせて,全ゲノムの大枠を決定しました。次に遺伝子配列を補正するため,鉄凝集法という方法により大量のウイルス粒子の回収を試みました。その結果,感染魚から飼育水中に排出された大量のウイルス粒子を濃縮することに成功しました。次世代シークエンサーを用いたウイルス粒子の解析により,遺伝子配列の補正が達成され,全ゲノム配列を決定することができました。CEVゲノムは、456,821塩基対から構成され、392個の遺伝子を有していると推定されました。魚類に感染するポックスウイルスとして唯一ゲノム情報が報告されているサーモンギルポックスウイルスと遺伝学的な類似性は認められましたが,全く別の種であることが分かりました。今回明らかにされたゲノム情報がCEVの感染メカニズムの解明などに繋がることが期待されます。

 本成果は、Microbiology Resource Announcements 2021 Apr 22;10(16). doi: 10.1128/mra.00239-21に掲載されました。

図

図.様々なDNAウイルスのDNA合成酵素遺伝子のアミノ酸配列を基に構築した分子系統樹を示します。CEVはポックスウイルス科に含まれますが,エントモポックス亜科(昆虫類が宿主)やコルドポックスウイルス亜科(哺乳類,鳥類および爬虫類などが宿主)のクレードとは独立していることが分かります。