日本海における海産ミジンコの分布:20年にわたるモニタリングから明らかになったこと
公表日 2021年4月3日
研究実施者:水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部 児玉武稔ほか
水産研究・教育機構が20年にわたり取り組んできた動物プランクトンのモニタリング結果を利用し、日本近海での海産ミジンコの分布を調べました。その結果、対馬暖流域では黒潮域と比較して、個体数密度も種数も多いことが明らかになりました。
ミジンコは学術的には枝角類と呼ばれ、河川や湖沼といった淡水で繁栄しており、400種以上知られていますが、そのうち海で生まれ育つものは8種だけです。しかし、この8種が熱帯から極域まで広く生息するとともに、さまざまな魚に餌として利用される海洋生態系の中で重要なメンバーです。特徴的なのは単為生殖ができることで、この特徴を生かして植物プランクトンのように急激に増えることがあります。また、環境が悪くなると卵で増える有性生殖を行い、その卵の状態で環境が良くなるのを待ちます。ただし、卵は海底まで沈むため、季節的な環境変化が海底にまで届く浅い海域でしか有性生殖をして生き残ることはできません。
当機構の使命の一つとして、水産資源を取り巻く海洋環境調査があり、その中でプランクトンネットによる動物プランクトンの採集とその種組成のモニタリングを続けています。今回はその蓄積されたデータの20年分、4000測点以上利用し、海産枝角類の種ごとの個体数密度の月別・空間別変化を明らかにしました。その結果、7種の枝角類、ウスカワミジンコ、ノルドマンエボシミジンコ、トゲエボシミジンコ、トゲナシエボシミジンコ、ウミオオメミジンコ、コウミオオメミジンコ、オオウミオオメミジンコが日本海で出現しました。そのうちコウミオオメミジンコ、オオウミオオメミジンコを除く5種は全体の10%以上のサンプルから出現しました。5種の中ではノルドマンエボシミジンコだけが春に多く出現し、他の4種は夏に個体数密度が高くなりました。黒潮域では主にトゲエボシミジンコ、トゲナシエボシミジンコの2種しか出現しなかったことと比較すると、日本海は海産枝角類の種数が多く、枝角類に対して好適な環境であることが分かりました。今後は急激に温暖化が進んでいる日本海でどのような変化が起きるかなどを引き続きモニタリングしていく予定です。
本研究成果は、国際的な海洋学の雑誌「Progress in Oceanography」の掲載に先立ち、2021年4月3日にオンラインで公表されました。https://doi.org/10.1016/j.pocean.2021.102561