国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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日本海南部沿岸域における溶存酸素濃度の減少傾向の検出

公表日 2021年3月15日

 

研究実施者:水産資源研究所 水産資源研究センター 海洋環境部 小埜恒夫


 日本海南部沿岸域における溶存酸素濃度の経年変動を調べたところ、対馬海峡から粟島周辺にかけての大陸棚域で、海底直上の溶存酸素濃度が減少傾向にあることが明らかになりました。酸素濃度の減少は底魚類の生息深度を浅い方に押し上げる可能性があります。

  気候の温暖化に伴い、海水中の溶存酸素濃度が減少して海洋生物に影響を与える懸念が強まっています。日本沿岸域の太平洋側では、常磐・三陸沖から十勝沖にかけての大陸斜面域で溶存酸素濃度が減少していることが既に知られていますが、日本海沿岸部における溶存酸素濃度の変動は詳しく調べられていませんでした。このため、日本海沿岸部で1960年代以降に観測された歴史的溶存酸素濃度データ10,819点を収集して海域別・深度別に経年変動を調べたところ、粟島周辺では水深200m以深、若狭湾では水深150m以深、大和堆では水深100m以深、さらに対馬海峡域では水深50m以深で、溶存酸素濃度が減少傾向にあることが判りました。水温・塩分等の関連データの解析から、温暖化で日本海内部の鉛直混合が起きにくくなり、海表面から海洋内部へ酸素が運ばれにくくなったことが溶存酸素減少の主な要因と考えられるが、対馬海峡については、東シナ海や黄海で起きている富栄養化も溶存酸素減少の原因の一つとなっている可能性もあることが推定されました。

 溶存酸素の減少は底魚類の生息深度に影響を与えることが海外の調査で判明しているため、これらの海域で底魚類の生息深度に影響が現れていないかどうか、今後検証していく必要があります。

 本研究は環境再生保全機構「環境研究総合推進費:海洋酸性化と貧酸素化の複合影響の総合評価(体系的課題番号JPMEERF20202007)」および日本学術振興会「科学研究費補助金:気候変動が引き起こす海洋溶存酸素変化:データ解析と数値計算による総合研究(課題番号18H04129)によって実施されました。

本成果は、Journal of Oceanography 77 (2021) 659-684に掲載されました。
(https://doi.org/10.1007/s10872-021-00599-1)

図
図.大和堆(上)、若狭湾(中)、対馬海峡西部(下)で1960年代から観測されてきた溶存酸素濃度の経年変化のグラフ。大和堆と若狭湾の観測水深は150m、対馬海峡西部の観測水深は50m。いずれも冬期(12月 -2月)のデータ。