国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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ズワイガニ類に対するトロ-ル網の漁獲効率推定手法の確立

[要約]

ズワイガニ類の生息密度を推定するために開発した曳航式深海用ビデオカメラを用いた、調査用トロ-ル網に対するズワイガニ類の漁獲効率推定手法と映像記録からベニズワイガニの甲幅を測定する手法を開発した。また、曳航式深海用ビデオカメラでベニズワイガニの観察を行うためには照明を行う必要があるが、この照明光がベニズワイガニの行動に影響を与えていないことを検証した。

 

水産工学研究所 漁業生産工学部 漁法研究室・機械化研究室    
連絡先  0479-44-5951
推進会議 水産工
専門   漁業生産
対象   ズワイガニ類
分類   研究

 

【背景・ねらい】
 ズワイガニ類の資源量は、従来トロ-ル網、かご漁具などの調査漁具の漁獲結果から推定されてきた。特にズワイガニではTAC が設定されているため精度の高い資源量推定を行う必要から、調査漁具からの推定精度をさらに高める必要がある。本研究では、ズワイガニ類の生息密度を推定するために開発した曳航式深海用ビデオカメラを用いて、日本海隠岐諸島周辺においてズワイガニを対象に分布観察を行った後に、調査用トロ-ル網による漁獲試験を行い、トロ-ル網の掃過面積に対する漁獲尾数から、トロ-ル網の漁獲効率を推定した。
 また、漁場における甲幅組成を把握することによって、次年度の漁獲サイズの加入量が推定できるので、曳航式深海用ビデオカメラで撮影した映像から、ズワイガニ類の甲幅推定手法を開発した。さらに、曳航式深海用ビデオカメラはズワイガニ類の分布を水中ビデオカメラで撮影する際(観察時)、ライトで照明する必要がある。特に、暗黒の世界に生息するベニズワイガニでは、照明光が、ベニズワイガニの行動に影響し、正確な分布が観察できないのではないかと懸念されてきた。これまでの研究では、観察時におけるベニズワイガニはほとんど静止した状態で観察されていたことから、照明光の影響は少ないと推察してきた。
 本研究では、水深約1000m の海底において赤外線カメラと赤外線ライトで餌で誘引したベニズワイガニを観察中に、通常のライト(可視光)で照射し、ベニズワイガニの行動に変化がないことを検証した。

 

【成果の内容・特徴】

  • 第3開洋丸を用いて、日本海隠岐諸島周辺においてズワイガニを対象に1999年8月27日から9  月20日にかけて、曳航式深海用ビデオカメラによる分布観察を行った。その直後に但州丸によってトロ-ル網の漁獲試験を行い、但州丸のトロ-ル網の漁獲効率を0.26と推定した。本手法でトロール網の漁獲効率の推定が可能であることを確認した。
  • 曳航式深海用ビデオカメラで撮影した映像から、ズワイガニ類の甲幅を推定する手法を開発した。映像から推定した甲幅組成とトロ-ル網のサンプリングによる甲幅組成の比較から、トロール網では小型個体の採集効率が低いことが推定できた(図1)。
  • 照明光の影響について赤外線カメラを用いてベニズワイガニの行動を観察中に、通常のライト(可視光)で光を照射し、行動に変化がないことを確認した。また、ベニズワイガニの視覚 器には、分光吸収ピ-ク波長λmax=447nmのロドプシンと考えられる視物質が検出された。赤外線カメラの観察では、680nm以上の赤外線域に近い光を照射しているため、この赤外線域に近い 光がベニズワイガニの行動線に影響を与えている可能性は極めて低いと推察される。したがって、通常のライトによる照明光についてもベニズワイガニの行動に影響を与えていないと推察した(写真1)。

【成果の活用面・留意点】
 本手法によりズワイガニ類に対する調査トロ-ル網の漁獲効率を推定することが可能となったため、調査トロ-ル網の漁獲から高い精度での資源量評価が可能となった。また、映像記録からズワイガニ類の甲幅測定ができるため、ズワイガニ類のサイズ別の漁獲効率が推定できる。さらに、照明光はベニズワイガニの行動に影響を与えないことが検証できた。このことより、照明光が、ベニズワイガニの行動に影響し、正確な分布が観察できないのではないかという懸念が払拭された。以上の知見から、ズワイガニ類の精度の高い資源量推定法の実現へ大きく前進した。

 

【具体的データ】

図1の上図2の上

図1の下図2の下

図1.トロ-ル網で漁獲したベニズワイガニと         図2.赤外線カメラ(上)と
     映像記録から測定したベニズワイガニの          通常のライト(下)で
     甲幅組成                         観察したベニズワイガニ

 

【その他】     
 研究課題名:曳航式深海用ビデオカメラによるズワイガニ類の分布密度の計測手法の開発
 予算区分 :経常・TAC関連基礎研究費・我が国周辺海域資源調査費
 研究期間 :平成9~12年
 研究担当者:渡部俊広、高橋秀行、長谷川英一
 発表論文等:

1.渡部俊広、北川大二(2000):曳航式深海用ビデオカメラを用いたズワイガニ類に対するトロ-ル網の漁獲効率推定法、平成12年度日本水産学会講予定
2.渡部俊広・長谷川英一(2000):行動観察に用いられる照明光はベニズワイガニの行動に影響を与えない?!、平成12年度日本水産学会講予定
3.渡部俊広(1999):曳航式深海用ビデオカメラによるズワイガニ類の分布観察、漁船第343号
4.渡部俊広、廣瀬太郎:曳航式深海用ビデオカメラによるズワイガニの生息密度推定法、日本水産学会誌投稿中
5.高橋秀行、渡部俊広、北川大二(2000):曳航式深海用ビデオカメラによって観察したベニズワイガニの甲幅測定法、平成12年度日本水産学会講演予定