漁船機関の低温始動時の白煙発生に及ぼす燃料油の影響
[要約]
小型漁船機関では、寒冷期に始動困難や白煙の持続等が問題となっている。A重油の着火性(セタン価)や蒸発性(蒸留特性)が関係する。低温実験室での機関実験から、燃料油のセタン価と蒸留特性が、低温始動性に及ぼす影響度を評価した。
水産工学研究所・漁業生産工学部・機械化研究室
連絡先 0479-44-5945
推進会議 水産工学
専門 漁船
対象
分類 行政
【背景・ねらい】
小型沿岸漁船に搭載される高速ディーゼル機関の燃料油としてA重油や軽油が使用される。A重油は品質規格が甘く製品のバラツキが大きいため、使用燃料油の性状によっては、始動困難、白煙の持続等のトラブルが発生している。特に、燃料の着火性(セタン価)による影響が大きいことから、これまでにセタン価と始動性の関係を調べ、小型漁船用燃料油のセタン価は45以上を必要とすることを示した。しかしながら、燃料油の蒸発性に対しては、始動性に影響するという指摘はされてきたものの、具体的にその影響度は調べられていない。そこで、燃料油の蒸留特性が機関始動時の白煙発生に及ぼす影響を調査した。
【成果の内容・特徴】
低温実験室に実験機関を設置し、低温始動時の白煙濃度を計測した(図1)。セタン価45一定で蒸留特性の異なる試料油を用意した(図2)。50%留出温度を基準に各試料油をSH260,SH290,SH320と表す。セタン価の影響度と比較するために、燃料油のセタン価を変えた試験も行った。
低温時には、機関始動までに数回のセルスタートを必要とし、特にこの間に白煙の発生は顕著となる。始動後も機関回転速度の変動に伴って白煙発生は持続する。図3に、低温始動時(室温5℃)の白煙濃度の計測例を示す。燃料油の蒸発性の差違によって白煙発生状況が違っており、最も蒸発性の悪い燃料油(SH320)が最も白煙濃度が高くなっている。
始動後5分間の白煙濃度の平均値と低温室温度の関係を図4に示す。低温になるに従い、またセタン価が小さくなるに従い白煙濃度が増大する。蒸留特性の差による影響も大きく、最も蒸発性の悪い試料油(SH320)の白煙濃度は、セタン価40の燃料油に相当している。
【成果の活用面・留意点】
低温始動時の蒸留特性が白煙発生に及ぼす影響度を定量的に示した。この成果は、今後の漁船燃料油規格制定等における指針として活用が期待できる。なお今回は、50%留出温度の大きく異なる試料油の結果であるが、最近のA重油は留出割合90%以降の留出温度も高くなる傾向にあり、これらの蒸留特性の影響も調査する必要がある。
【具体的データ】
【その他】
研究課題名:漁船からのからの有害排気ガスの低減化
予算区分 :経常
研究期間 :平成8~12年
研究担当者:漁業生産・機械化研 長谷川勝男
発表論文等:長谷川勝男:吸気予熱による小型高速機関の低温始動性の改善、
舶用機関学会64回講論集、23-26(2000)