アマモ場造成のための底質安定工法の開発
[要約]
水産生物保護育成場としてだけでなく環境資源としても重要なアマモ場を比較的波浪条件の厳しい海域で再生するための施設を開発を試みた。模型実験で底質安定機能を確認した後、徳島県鳴門市櫛木浜地先において造成現地試験を実施した。その結果、濃密なアマモ場が形成され周辺には魚類の蝟集が観察された。しかしアマモ場の維持・拡大に課題が残った。
水産工学研究所水産土木工学部漁場施設研究室・開発システム研究室
瀬戸内海区水産研究所瀬戸内海海洋環境部藻場干潟研究室
徳島県農林水産部水産課・水産試験場
岡山県農林部水産課・水産試験場
連絡先 0479-44-5938
推進会議 水産工学
専門 水産土木
対象 アマモ
分類 研究
【背景・ねらい】
我が国200海里水域の生産力を増大させるためには、沿岸域の生物涵養機能を再生・強化することが重要な課題である。アマモは浅海砂泥域に育成する顕花植物の一種であり、その群落であるアマモ場は、岩礁域におけるガラモ場、アラメ・カジメ場等とほぼ同様の生物保護育成機能を有する。近年、アマモ場及びその生息適地の減少が著しく、再生が望まれることから、海象条件が比較的厳しい海域においても適用可能な工学的造成手法の開発に着手した。なお、研究の普及を念頭に置いて、施設の材質、形状及び工法については、通常の海岸、海洋工事において一般的に用いられている材料、機材及び技術で対応できることを条件に検討した。
【成果の内容・特徴】
徳島県鳴門市櫛木浜地先及び山口県大島郡東和町逗子ヶ浜地先を対象フィールドとし、アマモ場内外の物理環境現地調査を実施し、既往の研究資料と併せ、アマモ場が再生しない要因の一つとして波浪による底質の不安定性に起因することを確認した。その結果を基に鋼板とエキスパンドメタルより構成される底質安定工を考案し(図1)、底質安定機能を水産工学研究所内の実験造波水路に設けた移動床模型において確認した(図2)。模型は22.5×22.5cmで、基点(移動床の沖側開始点)より+175cmの位置に設置した。図において破線が実験開始前の初期状態(1/50一様勾配)で細線が模型を設置しない状態で8時間波を作用させたときの海底形状、太線が模型設置状態のもので、模型設置位置を中心に岸沖方向60cm以上の幅で海底侵食が押さえられているのが見て取れる。
実海域における実証実験は、物理環境調査を行った徳島県鳴門市櫛木浜地先で実施した。この海域では、アマモ場は数から十数株の群落が点在するパッチ状の分布形態を示す。実験施設は90×90cm、約30kgで、陸上及び潜水作業員により設置できる大きさとした。平成10年1月に設置したところ、同7月期には周辺に見られるアマモ場形成状況よりも濃密なアマモ場が形成された(写真1)。また、その周辺には大小の魚類が蝟集し、本工法を用いて人工的に造成したアマモ場であっても水産生物涵養機能を有することが示唆された。形成されたアマモ場の維持・拡大については課題が残った。
【成果の活用面・留意点】
本工法により、アマモ場造成が公共事業等で大規模に施工可能となった。沿岸漁場整備開発事業で実施する場合は、さらに本工法を用いて造成したアマモ場の増殖場としての効果、魚礁としての効果、あるいは環境資源や底質安定機能等の副次効果について明確にする必要がある。また、本工法は播種を必要とするので、大量の種子の供給体制が課題として残る。
【具体的データ】
図1 底質安定工の概要
図2 移動床を用いた水理模型実験結果
写真1 アマモ場形成状況
【その他】
研究課題名:アマモ場造成のための底質安定工法の開発
予算区分 :沿岸漁場整備開発調査費
研究期間 :平成11年度(平成9~11年度)
研究担当者:森口朗彦、高木儀昌、仲宗根琢磨
発表論文等:分布特性の異なる2つのアマモ場における物理環境現地観測、
水産工学研究所技報、第21号、1999