国立研究開発法人 水産研究・教育機構

お問い合わせ

高速双胴型漁船の耐航性能推定法

[要約]

 水産庁補助事業で建造された双胴型沿岸漁船の開発に関連して、双胴型漁船の耐航性能を数値計算、実験の両面から検討した。また、双胴間の干渉を考慮した流体圧力の簡易な計算法を新たに考案した。これにより、双胴漁船で特に問題となる連結甲板構造の有限要素法解析が可能となり、その合理的設計法の確立が期待できる。

 

水産工学研究所・漁業生産工学部・船体研究室    
連絡先  0479-44-5942
推進会議 水産工学
専門   漁船
対象
分類   研究


【背景・ねらい】
 沿岸域で用いられる小型漁船の作業性の確保などの観点から、新形式の漁船として双胴船型を導入することが考えられ、水産庁の補助事業で試験船が建造された。双胴船型は、広い甲板面積、大きな横復原力などの際だった特徴があり、これらの利点が活かせる漁業種に対しては極めて有望な船型となり得る。しかし、双胴型漁船は、合理的な設計に必要となる基礎資料が極めて少なく、また、対称/非対称の船体形状、双胴間間隔、連結甲板の高さ等の組み合わせによって、通常の単胴漁船に比べて設計上の自由度がはるかに大きい。このため数値計算により、種々の航行条件、波浪条件に対して、構造強度や乗り心地の検討を行うことが開発過程における不可欠のプロセスになる。本研究では、高速の双胴型漁船の設計上、特に問題となる船体動揺、波浪荷重などの耐航性能の一般的傾向を把握し、双胴型漁船を開発していく上で必要となる基礎資料の蓄積と、数値計算による設計ツールを整備することを目標としている。また、双胴船全般に対する国内の構造基準を整備する動きがあり、本研究の成果は、その構造基準案作成の研究資料として活用する。
 
【成果の内容・特徴】
 ストリップ法に基づく双胴型漁船の耐航性能推定計算プログラムを開発した。数値計算と向波中の実験によって、双胴型漁船の波浪中船体動揺と波浪荷重の検討を行った。設計上の最大の課題である連結甲板の強度は横波中に停船している場合が最も厳しい。この状態における有限要素法による構造解析を行えるように、動揺モードごとに単胴船の強制動揺時の圧力から双胴間の干渉を考慮した圧力を簡単に計算できる方法を新たに考案し、その妥当性を検証した。これを双胴船用ストリップ法と組み合わせることで、双胴漁船の船体運動と連結甲板に働く波浪荷重や相対水位の推定、さらには有限要素法による構造解析が可能となった。
 
【成果の活用面・留意点】
 本研究で整備したプログラムは、現在、(社)日本造船研究協会で行われている双胴船の構造基準案作りに活用されている。今後、現在のプログラムの信頼性の向上や改良を図るとともに、高速域で問題となる連結甲板下面の波浪衝撃の研究が必要である。そのためには、高速域でも船体の縦運動を正確に推定できる計算法が必要となる。双胴型漁船には幾つかの県、水試が関心を持っているが、双胴船型は特殊な船型であるので利点もあれば欠点もある。実用化を考えた場合、個々の漁業形態と海域に応じた利害得失の検討が必要であり、今後も最適設計のためのツールの整備と、基礎資料の蓄積を図っておくことが重要である。
  
【具体的データ】

図1

図1  双胴断面圧力分布の計算例
図面右から左方向に波が入射した場合の双胴断面に作用する圧力の分布を表す。波長は吃水の約16倍の例。

 

図2

図2  双胴型沿岸漁船の向波中航行時の上下揺れと縦揺れの実験値と計算値の比較
 双胴型沿岸漁船が向波中を航行したときの上下揺れ(▲:実験値,実線:計算値)と縦揺れ(□:実験値,点線:計算値)の比較。両者は良く一致している。横軸は波長と船長の比,速力は実船で約9knot(Froude数=0.5)である。

 

図3

図3  停船時横揺れの実験値と計算値の比較
 船体と波との角度が180°(向波)~90°(横波)の範囲において,停船中の船体の横揺れを実験値(△,□印)と計算値(実線,点線など)とで比較している。双胴間の波の干渉を考慮した結果(一点鎖線)は、実験値と良く一致。横揺れと密接に関連する漁労作業中の安全性や作業効率等の検討が可能な精度である。

 

図4

図4  停船時に連結甲板に作用する横曲げモーメントの実験値と計算値の比較
 図3と同じ条件下の連結甲板中央に働く横曲げモーメントを比較。停船中における横曲げモーメントは,連結甲板の強度を決定する要素。双胴間干渉を考慮した計算値は実験値と良く一致していることから、連結甲板の強度の合理的検討が可能である。(なお,図3,4の実験値は,SR176報告書より引用した)

 

【その他】
 研究課題名:新しいタイプの漁船の流体力学特性,高速双胴漁船の波浪外力の研究
 予算区分 :経常
 研究期間 :新しいタイプ~(平成6年~8年),高速双胴漁船~(平成9年~11年)
 研究担当者:升也利一,山越康行,鈴木四郎
 発表論文等:升也利一:環境にやさしい漁船技術開発事業報告書,(社)漁船協会,H7,8
           升也利一,他:高速双胴漁船の船体運動と波浪荷重について(第1~5報),水工学講演論集
           升也利一,他:高速沿岸双胴漁船の開発研究,水工研技報(第1報:H10,第2報:印刷中)
           升也利一:第47基準部会,高速船特殊基準及びHSCコードの見直しに関する調査研究
          「高速船特殊基準の検討」(高速双胴船WG)平成10,11年度報告書,(社)日本造船研究協会