サイドスキャンソナーを用いた桁網通過跡の観察
[要約]
桁網が通過した海底を,サイドスキャンソナーを用いて観察した結果,全曳網航跡の6.5%で曳網によると考えられる通過跡が確認された。この結果は短期的にはサイドスキャンソナーの分解能(6.25cm)で確認できるような海底地形の変化が少ないことを示唆し,漁具が海底に深く潜ることが少ない,または,桁の通過跡はそれに続く網の通過で均され,サイドスキャンソナーではこうした影響を確認できない,のいずれかまたは相互の影響が考えられた。
水産工学研究所・漁業生産工学部・漁法研究室,船体研究室
連絡先 0479-44-5952
推進会議 水産工学
専門 漁業生産
対象
分類 研究
【背景・ねらい】
漁業活動のうち,特に漁具等が海底に接触する底曳網,かけまわし,底刺網などの漁業の操業は,海底上の磯根を破壊したり,そこに生息する生物群集の構造を変化させることが危惧されており,海外では研究成果が公表されつつある。米国ではこうした環境に与える影響の規模は,議論の余地があるが,陸上における野生森林の伐採に匹敵するという説も唱えられている。一方,我が国ではこうした研究は始まったばかりであり,知見は非常に少ない。
漁業生産と環境保全を調和させるためには,漁業活動が漁場環境に与える短期的または長期的な影響の度合いを,定量的に評価できる手法を明らかにする必要がある。そのために本研究では,東京湾における小型底曳網(桁網)漁業を例として,漁具が海底面上を通過した跡の観察をサイドスキャンソナーを用いて試み,桁網操業が海底面に与える影響を検討する。
【成果の内容・特徴】
東京湾内の底曳網漁場(泥質,水深約10m)の約1500 x 400mの範囲を実験区域として設定した。観察には,透明度が低い海域で実験を実施したこと,できるだけ広い範囲の海底を対象にする必要があることなどから,映像機器の使用を避け,海底からの超音波反射の強弱を海底地形のイメージとして記録できるサイドスキャンソナー(EdgeTech社製)を用いた。最初に実験区域の海底地形をサイドスキャンソナーにより調べ,次に,この漁場で使用されているビームトロール網(網口2.75x0.3m,全長9m,ビーム+ティックラーチェーン重量約130kg)を,通常の曳網速度(約4ノット)と約
2.5ノットで曳網した。曳網後に再び,実験区域の海底地形をサイドスキャンソナーにより調べ,DGPSで記録した曳網航跡と曳網前後の海底地形の変化から,曳網によりできた海底上の通過跡を特定した。
1.4ノット曳網時に桁網は2980m曳網され,そのうちの2784mがサイドスキャンソナーの観察範囲で あったが,海底に通過跡は認められなかった。
2.2.5ノット曳網時には,桁網は1951m曳網され,そのうち1741mが観察範囲であった。観察範囲の 曳網航跡のうち,連続した113m(6.5%)で曳網によると考えられる通過跡が海底上に確認され た。
3.本実験の結果は,数回程度の曳網ではサイドスキャンソナーの分解能(6.25cm)で確認でき るような海底地形の変化が少ないことを示唆する。その理由は,漁具が海底に深く潜ることが 少ない,または,桁の通過跡はそれに続く網の通過で均され,サイドスキャンソナーではこう した影響を確認できないの、いずれかまたは相互の影響と考えられる。
【成果の活用面・留意点】
サイドスキャンソナーを用いた海底の観察は,底曳網などの漁業が海底に与える影響を調査する手法として使用できる。その利点として,広範囲の海域や濁った海底の観察に有効であること,D-GPSとの併用で,高精度かつ簡便に,海底の変化を短・長期的に観察することが可能であることがあげられる。一方,分解能などの制約条件があることから海底への影響の度合いを調べることが困難である。したがって,映像観察手法や底生生物を指標とした評価手法などと組み合わせて用いることが望ましい。
【具体的データ】
表1 曳網実験の概要
図1 サイドスキャンソナーで観察された桁網の通過跡 (左,楕円内;右,拡大図)
【その他】
研究課題名:運用漁具が海底に及ぼす影響に関する研究
予算区分:経常(所内プロジェクト研究)
研究期間:平成11年度
研究担当者:漁業生産工学部・漁法研 松下吉樹, 船体研 藤田 薫
発表論文等:松下吉樹・藤田 薫・Daniel L. Erickson・上田寛樹:
サイドスキャンソナーによるビームトロール網通過跡の観察、平成11年度日本水産学会秋季大会発表,1999.9