国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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"いかなご釘煮"加工用原料魚の冷凍保蔵技術の開発と実用化

[要約]
 短期間に大量に漁獲され、冷凍耐性が弱く長期保蔵できなかったイカナゴの安定供給と"いかなごの釘煮"製品の高品質化を図るため、原料魚であるイカナゴの冷凍保蔵技術を開発し実用化に結びつけた。


兵庫県但馬水産事務所試験研究室
[連絡先]0796-36-0395
[推進会議]水産利用加工
[専門]加工流通技術
[対象]いかなご
[分類]普及


[背景・ねらい]
 "いかなごの釘煮"は生のイカナゴを原料とし、"煎りつけ法"でつくる兵庫県瀬戸内地方の特産品で、一般の佃煮とは異なり独特の香ばしさと柔らかさを特徴としている。
 原料となるイカナゴは、鮮度低下がきわめて速いうえ3月の限られた時期に大量に漁獲されるため、従来から冷凍保蔵する試みがなされてきたが、冷凍保蔵中に蛋白質の変性が起こり身が崩れやすくなるため、"煎りつけ法"でつくる"釘煮"の加工には利用できなかった。そこで、糖類を用いた蛋白質の冷凍変性防止技術と急速凍結技術を活用し、"いかなごの釘煮"加工に利用できる原料魚の冷凍保蔵技術の開発を行った。


[成果の内容・特徴]

  1. イカナゴ3kgに500gの糖(70%ソルビトール液)を混合し-40℃で急速凍結したイカナゴの冷凍ブロック(44×29×3cm)と、無処理で急速凍結したものを5ヶ月間冷凍保蔵し、22℃で放置解凍した直後の原料魚とそれらを加工した製品について品質を比較した。
  2. 解凍中-5~0℃の最大氷結晶生成温度帯を通過するのに要した時間は、無処理の冷凍ブロックが3時間15分かかったのに対し、糖を加えたものは2時間9分であった。(図1)
  3. 解凍直後、無処理の魚体には腹切れや身崩れのある個体が認められたが、糖を加えた魚体には認められなかった。また、無処理の魚体は肉部がやや白濁し弾力がなくなったが、糖を加えた魚体は肉部に透明感と弾力があった。(図2)
  4. 製品の品質は、無処理には首折れ腹切れ等の身崩れが認められたが、糖を加えたものにはほとんど認められなかった。良い製品の特徴である魚体の曲がりは、糖を加えた製品には認められたが無処理の製品には認められなかった。また、無処理の製品は"あく"によるものと思われる表面のざらつきが多く色つやの悪いものであったが、糖を加えた製品は表面のざらつきがなく色つやの良いものであった。(図3)
  5. 以上の結果、"釘煮"加工用の原料魚を高品質で長期間冷凍保蔵することが可能になり、この技術を活用した専用の冷凍設備が兵庫県内の漁業協同組合に設置された。(図4)


[成果の活用面・留意点]

  1. 糖を使用するため、佃煮やみりん干しなど調味料を使う加工品の原料に適している。
  2. イカナゴ以外の冷凍耐性が弱い魚種にも応用できる。
  3. 急速冷凍の併用が必要である。
  4. 兵庫県内の漁業協同組合で実用化規模の施設ができている。
  5. 特許出願中である。

 

図1
図1 いかなご冷凍ブロックを室温で解凍した時の温度変化

 

図2
図2 糖類を加えて冷凍した魚体(左)と無処理の魚体(右)の解凍直後の様子

 

図3
図3 糖類を加えて冷凍した原料(左)と無処理の原料(右)で試作した”いかなごくぎ煮”

 

図4
図4 イカナゴ冷凍保存庫の外観(左)と内部(右)の様子(2001年6月)


[その他]
研究課題名:"いかなご釘煮"加工用原料魚の冷凍保蔵技術の開発
予算区分:但馬水産加工技術開発試験(県単)
研究期間:平成11年度~13年度
研究担当者:森 俊郎
発表論文等:"いかなご釘煮"加工用原料魚の冷凍保蔵実用化試験、平成11年度
        兵庫県但馬水産事務所試験研究室事業報告、2000