国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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ソウハチの漁獲から一夜干し製品までの温度履歴の解明

[要約]
 漁獲直後の冷却処理や加工工程中の温度管理の重要性に対する漁業者や加工業者の理解を深め、一夜干しかれいの高品質化を図るために、原料魚であるソウハチの生息場所から漁獲、船上処理、加工工程、製品の保蔵までの温度履歴を明らかにした。


兵庫県但馬水産事務所試験研究室
[連絡先]0796-36-0395
[推進会議]水産利用加工
[専門]加工流通技術
[対象]魚類
[分類]普及


[背景・ねらい]
 ”一夜干しかれい”は兵庫県但馬地方の主要水産加工品であるが、原料のソウハチは漁獲直後の取り扱いによって温度差が発生し、これが魚の浜値や製品の品質(図1)・価格に大きく反映する。聞き取り調査によれば、業界において品質保持の重要性は認識されているものの、船上・加工における温度管理は勘と経験に基づくことが多く、改善の余地が多く残されている。そこで、漁獲から加工製品に至る温度履歴を明らかにすることにより、鮮度管理に対する漁業者や加工業者の認識を深め、一夜干し製品の高品質化を図ろうとした。


[成果の内容・特徴]

  1. 漁場での温度:ソウハチの漁場付近の海洋観測調査の結果、2~10℃の水温(水深約100~200m)で生息しているソウハチの魚体温は、漁獲時に表層の海水温の影響を受け、漁獲直後には2月で12℃、10月では23℃まで上昇することがわかった。(→図2)
  2. 漁船上での温度:現在漁船上で行われている主な3種類の漁獲後の冷却方法について、魚体中心温度の変化を魚箱(図3)の異なる場所(底、中心、表面)で比較した。まず無処理で魚箱に入れた場合は冷却効率が悪く、魚体中心温度が10℃以下になるまでに10時間以上を要した。(図4左)。また、魚が隠れる程度の氷で覆った場合にも、魚箱上面の魚体は比較的速やかに冷却することができたが、魚箱中心ならびに底部の魚の冷却には数時間を要した(図4中央)。一方、水氷で冷却した後魚箱に入れた場合には非常に冷却効果が高かった(図4右)。以上のように、漁獲後の魚体中心温度の変化は、冷却方法によって非常に異なることが明らかとなった。
  3. 加工工程中の温度:原料魚が加工場へ搬入されてから一夜干しに加工され、冷凍保蔵するまでの魚体中心温度と雰囲気温度の経時変化を調べた。加工工程中の魚体温度は、調理、串差し、乾燥、選別・包装工程で雰囲気温度(室温もしくは乾燥温度)近くまで上昇することが明らかとなった。


[成果の活用面・留意点]

  1. 漁業者や加工業者が従来の勘と経験で行ってきた鮮度保持方法が適切であるかどうか、本成果を参考にして科学的に判断でき、船上や加工場での鮮度保持方法の改善に役立てられる。
  2. ソウハチ以外の魚種にも応用が可能である。
  3. 冷却速度や到達温度は、漁獲直後の魚体温度、冷却温度と時間、収容する魚箱の材質や大きさ、魚倉内の温度等の影響を受けるため、活用にあたっては各漁船のスペースや作業時間に合わせた冷却方法を選定し条件の設定を行う必要がある。


[具体的データ]

図1  図2

図3  

 

図4

 

図5


[その他]
研究課題名:ソウハチの漁獲から一夜干し製品までの温度履歴の解明
予算区分:水産物高付加価値化技術開発試験(国庫1月2日)、但馬水産加工技術開発試験(県単)
研究期間:平成10~12年度
研究担当者:森 俊郎
発表論文等:平成10,11年度地域水産物加工技術開発高度化事業成果報告書
        平成10,11年度兵庫県但馬水産事務所試験研究室事業報告