浮魚類仔稚魚の天然動物プランクトン群集に対する摂餌選択性の実験的検証
公表日:2024年 6 月 7 日
研究実施者:水産技術研究所生産技術部 中村政裕
サバ類やイワシ類の浮魚類仔稚魚がどんな餌を好んで食べるのか、という研究は数多く行われてきましたが、そのほとんどは野外調査に基づくアプローチでした。この方法では、現場海域で網をしばらく曳いて仔稚魚と餌となる動物プランクトンを同時に採集しますが、得られた標本には、「①仔稚魚と動物プランクトンは本当に同じ場所にいたのか?(網を引く途中の別々の場所で網に入ったのかもしれない)」、「②弱った仔稚魚だけが選択的に採れてしまったのではないか?(元気な仔稚魚は網から逃げたかもしれない)」、「③消化されやすい餌は見逃されているのでは?(本当は食べていたのに消化されて餌としてカウントされなかったもしれない)」といった疑問が常に付きまといます。そのため、野外研究だけでは仔稚魚の真の摂餌選択性を突き止められているかという点にあいまいさが残っていました。
そこで本研究では、野外で採集した動物プランクトンを実験室のビーカーに入った仔稚魚に与える短時間の実験を行うことで、上述①~③の不確実性を最小化した条件でマサバとカタクチイワシの仔稚魚の餌の選択性を検証しました。その結果、両種ともカイアシ類を含む甲殻類を好んで食べることや、体が成長するにつれてより大きな餌を食べるようになるという、野外研究と同様の傾向が認められました。これらの結果は、あいまいさの残る野外調査の結果を解釈する際の指針として本研究で実施した飼育実験の重要性を示しています。今回の研究では使用した動物プランクトン群集の組成に偏りがあり、餌を食べなかった空胃の個体も多く検出されました。異なる組成のプランクトン群集を用いて追加の実験を行うことで、私たちに身近でありながら実は不明点が多いサバ類やイワシ類の摂餌生態について、より包括的な理解が進むことが期待されます。
本研究は、東京大学大気海洋研究所の一般共同研究および科研費3課題( JSPS 22H05030、20K15590, 22K14945)の一環として実施されました。
本研究成果は、国際科学雑誌「Marine Biology」に2024年6月7日に掲載されました。
(https://doi.org/10.1007/s00227-024-04465-8)