新発見!カツオの卵のふ化水温
公表日:2024年5月16日
研究実施者:
藤岡紘*1・青木良徳*2・津田裕一*2・岡本慶*2・土田洋之*3・佐々木章*3・清藤秀理*2
*1 水産資源研究所 広域性資源部(現:東海大学海洋学部)
*2 水産資源研究所 広域性資源部
*3 かごしま水族館
- 水産研究・教育機構とかごしま水族館が共同で、カツオの卵のふ化する水温とふ化率の関係を初めて明らかにしました。
- カツオがふ化する水温は、他のまぐろ類と比較して広く、高水温帯では短時間で安定したふ化が可能であることを示しました。
- 環境変化や気候変動によるカツオの産卵場の変化や資源動態への影響を明らかにするための基礎的な成果として期待されます。
カツオの資源動態を左右する卵や仔魚(しぎょ)期などの生活史初期の生き残りには海洋環境が大きく影響すると考えられています。しかし、生活史初期の生態を解明するためには、熱帯・亜熱帯域の広大なカツオの産卵場での調査が必要となり、膨大な労力と時間を要します。また、カツオを飼育して産卵させる事も難しく、生活史初期の生態研究は1974年にまで遡り、それ以降進展がありませんでした。
かごしま水族館では、世界的に事例の少ない飼育環境下でカツオを産卵させることに成功しており、これまで実現できなかったカツオの受精卵の採集が可能となりました。そこで、カツオの卵のふ化率に及ぼす水温の影響を調べるため、水族館で採集した受精卵を21~33℃の異なる水温で飼育して(図A)、正常にふ化した卵の数(ふ化率)とふ化に要した時間を測定しました(図B、C)。
カツオの卵は水温23度から31度の広い範囲で50%以上の高いふ化率を示すことが明らかとなりました(図D)。また、高いふ化率を示した水温範囲の中でも、高温になるほどふ化時間が短くなりました。
卵は捕食者に対して脆弱(ぜいじゃく)であり、ふ化時間が長いほど生残率が低下します。したがって、熱帯域のような水温が高い環境ではカツオの卵のふ化にかかる時間を短くして生残率を高め、これが熱帯域でのカツオの産卵場に有利な生存戦略になっていると考えられます。
将来(2027年以降)の海水温の予測によると、太平洋に広がるカツオの産卵場の水温は32度以上となり、今回明らかとなった知見から、現在の産卵場が将来には卵のふ化には適さない環境になることが示唆されます。
本研究成果は、気候変動下におけるカツオの産卵場を予測するための生物学的根拠となり、持続的な資源の利用と管理に資する基礎的な知見になると期待されます。
本研究は水産資源調査・評価推進委託事業(水産庁)のうち国際水産資源調査・評価事業、国際水産資源動態等調査解析事業(水産庁)にて実施した。
本研究成果は、国際的科学雑誌「Journal of fish biology」に短報でオンライン掲載されました。
Fujioka, K., Aoki, Y., Tsuda, T, Okamoto, K., Tsuchida, H., Sasaki, A., Kiyofuji, H. (2024). Influence of temperature on hatching success of skipjack tuna (Katsuwonus pelamis): Implications for spawning availability of warm habitats. J. Fish. Biol. https://doi.org/10.1111/jfb.15767
(A)異なる水温区での卵の飼育、(B)顕微鏡下での卵の観察(C)正常にふ化した仔魚、(D)カツオの卵のふ化率(黒実線)、ふ化までの時間(丸点の色)と水温(横軸)の関係。点線はふ化率の95%信頼区間を示す。卵が50%以上の確率(赤線より上部)で正常にふ化するのは水温23~31度の範囲。