国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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魚の未来予報に向けた第一歩:―トラフグ資源の短期的な将来予測に成功しました―

公表日:2023年2月14日

 

研究実施者:
西嶋翔太(水産資源研究所 水産資源研究センター 浮魚資源部)
鈴木重則(本部 研究戦略部)
福田遼、岡田誠(三重県)
 

本研究では、不確実性が高く資源評価には使いづらいと考えられていたトラフグの加入前調査データを、最先端のモデリングによって処理することで、近い未来の資源状態を高い精度で予測することに成功しました。

魚の資源評価では、観測された漁獲データ等から未来の資源量を予測し、その予測に基づいて生物学的に許容できる漁獲量を計算・提案します。許容漁獲量の計算根拠となる未来の資源量を過大に見積もると、過剰漁獲(乱獲)を引き起こす原因となるため予測には正確さが求められます。トラフグ伊勢・三河湾系群の資源評価では、提案時までに観測されたデータから2年先の許容漁獲量を計算しますが、未来の資源量の予測が不安定という問題を抱えていました。

直近の加入量を事前に把握するため、卵稚仔の採集調査を実施することはありますが、データに潜む不確実性が高いなどの理由から、日本でも海外でも将来予測にはあまり使われてきませんでした。三重県水産研究所では毎年、トラフグ天然稚魚のモニタリング調査を実施していましたが(図B)、1尾も採れない年があるなど不確実性が高く、このデータを将来予測に使うことは難しいと考えられていました。

そこで私たちは、隠れ変数モデル*と呼ばれる統計的手法で、トラフグ稚魚のモニタリング調査で得られたデータに潜む不確実性を取り除いたうえで加入量の指標としました。この加入量指標を将来予測に使うことで近い未来の加入量の予測誤差を+68%から-4%に、資源量の予測誤差を+34%から+15%に大きく減らすことに成功しました(図C)。

今回のトラフグの例では、隠れ変数モデルによりトラフグ稚魚のモニタリング調査データの不確実性を除去することで、近い未来の予測性能を大幅に向上させることができるという貴重な事例を示すことができました。本成果は長期的なモニタリングデータと最先端のモデリング技術を組み合わせたことによって成し遂げられたと言えます。このような地道な研究成果を重ねることで、これからの日本の水産資源の持続可能な利用に貢献していきたいと考えています。
 

本研究の成果は、水産資源調査・評価推進委託事業(水産庁)で得られたデータを利用して実施されました。
 

本研究成果は、水産資源学の国際誌「Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences」に2023年2月14日にオンラインで掲載され、計算用の参照データベース、R言語によるプログラムとともにCC BY 4.0ライセンスに基づき制限なく利用することが可能です。
( https://doi.org/10.1139/cjfas-2022-0017 )

 

*隠れ変数モデルとは
観測されない変数と観測されたデータの関係を明示的に表現する統計モデルのことである。本研究では、トラフグ天然稚魚の年変動パターンを未観測の変数として扱い、データに潜む不確実性を除去することで、短期予測の精度向上に成功した。