国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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サバの卵の上手な見分け方

公表日:2024年5月9日

 

研究実施者:
渡井幹雄・安田十也・木下順二(水産資源研究所)
入路光雄・長井 敏・米田道夫(水産技術研究所)
高須賀明典(東京大学)

本研究では、ゴマサバとマサバの卵の直径が採集された海域の水温によって異なることを見出しました。このことによって、これまでよりも正確にゴマサバとマサバの卵を見分けられる新しい判別基準を開発しました。これにより資源評価の精度向上が期待されます。

 水産物の資源状態を評価するために、魚だけでなく海の中を漂う卵のことも知る必要があります(産卵調査:図A)。調査では様々な種類の魚の卵が採集されるため、これらがどの魚種の卵なのかを調べる技術が不可欠です。一般的には、卵の形や出現時期などの特徴からどの魚の卵なのかを見分けますが、それらの特徴がよく似ている場合、見分けるのは容易ではありません。
 重要な水産物であるマサバとゴマサバの場合、これまでは卵の直径の違いを基準に種を見分けてきましたが、この基準を使った2018年の調査ではゴマサバの親魚の不漁が続いているにもかかわらず、ゴマサバの卵が急に増えたという結果となりました。そこで、過去16年間の調査でとれた約3万7千粒のサバ類の卵について、卵の直径と採集場所の水温データとの関係に加えて一部の標本のDNAも調べたところ、これまで見分け方の基準としていた「ゴマサバの卵はマサバよりも大きい」ことに加え、ゴマサバもマサバも「水温が高い海域で採れた卵ほど小さい」ことが明らかになりました(図B)。
 この発見によって、卵の大きさだけでなく、採集された海域の水温の情報も利用して、これまでよりも正確にゴマサバとマサバを見分けることができるようになりました。今回発見した新しい基準をもとに過去の調査結果を再度見直したところ、2018年のゴマサバの産卵量は前後の年より多いものの大きくは変わらない値となりました(図C)。各地の水揚げの状況や別の調査結果とも整合するようになり、資源評価の精度向上に繋がる新しい判別基準を確立出来たと考えています。
 なお、この判別方法は標本を破壊せずに行えるため、標本を将来の研究のために残すことができるという利点もあります。

 

本研究は水産資源調査・評価推進委託事業(水産庁)で得られたデータを利用し、資源量推定等高精度化推進事業(水産庁)の枠組みで実施され、得られた成果が生物海洋学分野の国際的な学術誌 Fisheries Oceanography に2024年5月9日付けでオンライン版として掲載されました。
Watai M, Yasuda T, Kinoshita J, Nyuji M, Nagai S, Takasuka A, Yoneda, M. (2024) Interspecific and intraspecific differences in egg size of two mackerel species Scomber spp. in relation to sea surface temperature in the western North Pacific: a new approach to species identification. Fisheries Oceanography. https://doi.org/10.1111/fog.12675