黒潮流域のサンゴ群落に棲む魚類の多面的な価値を算出-低緯度、種多様性が高いほど高い価値を持つ-
公表日:2020年8月26日
研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 水産基盤グループ 佐藤允昭ほか
生態系(自然環境と生物の集まり)から得られる自然の恵みを「生態系サービス」と呼び、自然資源の持続的利用につながる政策立案や企業活動に向けて、その数値化や経済評価が近年世界中で進められています。地球上の生態系の中で、単位面積当たりの経済価値ではサンゴ礁が最も高いといわれていますが、サンゴ礁の恩恵を大きく受けている東南~東アジアの島嶼国ではその評価があまり進んでいません。また、熱帯から緯度が高くなるほど種多様性が低くなるという生態学の一般則に対して、生態系サービスによる経済価値がどのような関係を持つのかという点についてもよくわかっていません。
本研究では黒潮流域沿いのフィリピン(熱帯)、琉球列島(亜熱帯)、高知(温帯)のサンゴ群落で収集された魚類データと市場価格やウェブ上の情報を組み合わせて、水産物の供給、鑑賞魚の供給、ダイビングの体験といった魚類が提供する生態系サービス(図A)の潜在的価値を計算し、各調査地点の緯度ならびに魚種数と生態系サービスの潜在的価値の関係を調べました。各地点の潜在的価値は、水産物では各魚種の市場価値($/kg)×重量(kg/20m2)の総和による経済価値、観賞魚では各魚種の市場価値($/匹)×密度(匹/20m2)の総和による経済価値、ダイビングではウェブ上の掲載数を基にした各魚種の人気度(ランク)×密度(匹/20m2)の総和によるランク価値を指標としました。その結果、鑑賞魚とダイビングの価値は低緯度ほど高く(高緯度ほど低く)なる傾向がみられましたが、水産物は熱帯と亜熱帯に2つのピークがみられました(図B)。また、どのサービスの価値も種多様性が高いほど高くなる傾向がみられ(図C)、生物多様性の保全が各生態系サービスの価値を高く保つためにも重要であることが示唆されました。
本研究は高知大学と共同で行い、科学研究費(20K20011)から助成を受けました。
この研究成果は、『Population Ecology』誌の2020年8月26日付のオンライン版に掲載されました。doi/10.1002/1438-390X.12061