アワビ類の筋萎縮症の病原体と推定されるウイルスを特定し検査法を開発
公表日:2020 年 3 月 23 日
研究実施者:水産技術研究所 養殖部門 病理部 松山知正ほか
アワビの筋萎縮症は、主に種苗生産場の稚貝で発生し大量死を起こしますが、私達は病原体の精製とゲノム解析によって、新種のウイルスを本病の原因として推定しました。さらに、本ウイルスを検出するPCR法を開発し、迅速で正確な診断が可能となりました。
アワビの筋萎縮症は、主に稚貝で発生する感染症で、1980年代から日本各地の種苗生産場で発生し、時に累積死亡率が50%を超えるような大量死をもたらしています。感染試験からウイルス性の疾病と考えられていましたが、30年以上もの間、病原体は不明のままでした。
そこで、筋萎縮症のアワビ病貝の磨砕濾液を作成し、超遠心法により病原体を含む分画を調整し、本分画に病原体が存在することを感染試験で確認した後に、本分画に含まれるRNAとDNAを網羅的に解読しました。読み取った塩基配列を解析した結果、病貝に特異的かつ普遍的に検出される配列は、約155kbpにまとまりました。この長い配列には、159の遺伝子があり、そのうち44種類はAfrican swine fever virus (ASFV)の遺伝子に類似し、ゲノム上での遺伝子の並びも両者で類似していることがわかりました。さらに、in situ ハイブリダイゼーション法から、本ウイルスが筋委縮症のアワビの筋肉中に存在することが示されました。これらから、アワビの筋萎縮症の病原体は、ASFVに近縁の新種のウイルスと推定されました。 まだ本ウイルスのゲノムの全体が解析できていないことと、ウイルス粒子の形状を観察できていないことから、本ウイルスを命名することはできませんが、暫定的な仮称として、アワビ・アスファ様ウイルス Abalone asfa-like virus (AbALV) を我々は提唱しています。
さらに、本ウイルスを検出するPCR法を開発したことから、迅速で正確な筋委縮症の診断が可能となりました。今後は、感染アワビの早期発見も可能となることから、本疾病の蔓延防止や被害の軽減が期待されます。
なお、本ウイルスは、20℃前後の低温でなくては増殖しないことと、アワビ体内の浸透圧は海水と近いなど哺乳類の体内環境とは全く異なることから、ヒトを含めた哺乳類に感染することはありません。
本研究は科学研究費(18H02282)の助成を受けて行いました。
本成果は、Scientific Reports. 2020. 10(1):4620. doi: 10.1038/s41598-020-61492-3. に掲載されております。