国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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有明海における二枚貝の資源減少に関する取り組み ー成長段階の異なるタイラギに対する貧酸素の影響ー

公表日:2020年8月26日

 

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 長副 聡ほか

 

 有明海の重要な二枚貝資源であるタイラギについて、水中の酸素濃度と死亡との関係を調べました。その結果、1歳より2歳の方が酸素の少ない環境で死にやすく、成長段階によって影響が異なることが明らかとなりました。

 本タイラギは、高級食材として取引される有明海を代表する二枚貝です。しかしながら、その資源量は激減しており、2012年以降、有明海のタイラギ漁業は休漁となっています。我々は、有明海におけるタイラギの資源回復を目指していますが、まずは対象生物を深く知ることが重要です(「どのような環境が好きか」、逆に「どのような環境が嫌いか」など)。

 近年、当機構を含めた研究機関の努力により、野外で捕獲したタイラギ親貝から受精卵を得て、人為的な管理により成貝まで育成する技術開発に成功しています。これにより、状態が均一で、様々な成長段階にあるタイラギを入手できるようになり、タイラギの生物学的特性に関する研究は大きく進展しています。

 今回は、人工的に生産した1歳と2歳のタイラギを用いて、致死的な影響を与える水中の酸素濃度を調べました。様々な酸素濃度で4日間、飼育したところ、1歳貝は無酸素に近い状態でしか死なないのに対し、2歳貝は約2mg/Lの酸素濃度でも一部の個体が死亡しました。また、我々が行った別の研究では、タイラギの稚貝(殻長20mm程度)は、約3mg/Lの酸素濃度で24時間以内に死亡することも明らかになっています(「水産増殖(Aquaculture Science)」第65巻2号)。これらの結果から、成長段階によって酸素濃度に対する耐性が異なることが明らかとなりました。自然界では、海水中の酸素濃度が4mg/Lを下回る状態を「貧酸素」と呼んでいます。夏場の有明海では、しばしば貧酸素の状況が2週間ほど継続することが報告されていることから、今回得られた成果は、有明海におけるタイラギ資源の減少要因を把握し、再生につなげる上で重要な知見になります。今後、成長段階で影響の度合いが異なる理由、他の環境要因による影響など更に研究を進めていきます。

 本研究は、2016年度環境省請負業務「有明海・八代海等再生評価支援(有明海二枚貝類の減少要因解明等調査)」によって実施しました。

 本研究成果は、国際的な水環境毒性学の雑誌「Aquatic Toxicology」10月号(Vol. 227)に先立ち、8月26日付のオンライン版に掲載されました。https://doi.org/10.1016/j.aquatox.2020.105610

図
様々な水中の酸素濃度(横軸)で4日間飼育した時のタイラギの死亡率(縦軸)を示した図。死亡率が100%に近いほどタイラギが死にやすく、0%に近いほど死ににくい。1歳貝(丸印、黒破線)と2歳貝(バツ印、オレンジ実線)で異なることが分かります。.