一年生ホンダワラ類アカモクの冷蔵種苗の育成
[要約]
ホンダワラ類の種苗確保の利便性を高めるため,アカモク幼胚を用いて冷蔵種苗の有効性を検討した。冷蔵した幼胚は1年後でも,高率の発芽率と良好な成長を示した。屋外水槽において冷蔵種苗を育成したところ,最短4ヶ月で全長1m程度の成熟藻体が得られた。この技術は藻場造成に応用可能と考えられた。
瀬戸内海区水産研究所 瀬戸内海海洋環境部 藻場・干潟生産研究室
[連絡先]0829-55-3430
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門]漁場環境・生物生産・増養殖技術
[対象]ほんだわら
[分類]研究
[背景・ねらい]
漁場環境修復のため,藻場の維持・造成が求められている。藻場の造成においては,種苗移植が有効な手法である。ホンダワラ類の種苗の確保は,成熟期に母藻から放出される幼胚を採取することによっているが,ホンダワラ類の成熟期は年間の短い季節に限られている。
ホンダワラ類の種苗確保の利便性を高めるため,アカモクの幼胚を低温化で長期間保存し,その発芽・成長能を調べた。またこの冷蔵種苗を屋外水槽中で育成し,成長・成熟させた。
[成果の内容・特徴]
- アカモクの幼胚を単離後,PSEI培地中に入れ冷蔵庫(5℃,暗条件)で保存した。この冷蔵種苗を,温度・光馴化後,培養庫内で(20℃,100uEm-2s-1,12hL-12hD)培養した。冷蔵期間1年,2年の種苗の発芽率はそれぞれ81,11%であり,培養1ヶ月後の成長は,母藻から単離後直ちに培養を開始した幼胚と差は無かった(表1)。
- アカモクの冷蔵種苗を屋外育成した。12月に採取した幼胚をレンガに着生させた後,ろ過海水中に入れ, 冷蔵庫に保存した。4ヶ月後,8ヶ月後,及び1年後に馴化の後,屋外水槽中で培養を開始した。種苗の発芽は,冷蔵4ヶ月及び8ヶ月のもので見られた。対照種苗(採取後すぐに培養を開始)は秋季に急速な伸長を示し,12月に最大長(266cm)に達し成熟した。冷蔵4ヶ月及び8ヶ月の種苗も秋に急速な藻体の伸長を開始し,対照種苗と同様に12月に最大長(それぞれ212cm,94cm)に達し,成熟した(図1,2)。
[成果の活用面・留意点]
- 冷蔵種苗により,藻場造成や試験研究用の種苗の利用が年間を通じて可能になる。
- アカモク冷蔵種苗は,培養開始時期を制御することにより,比較的短期間にあるサイズまで育成できた。藻場成立の制限要因の解明と共に,現場における藻場造成技術の開発に資することができると考えられる。
- 冷蔵種苗の活用においては,ホンダワラ類の生活史を制御している要因(光・水温等)の解明が必要である。
- 冷蔵中の保存条件や,屋外に出す際の馴化の方法については改善が必要と思われる。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:(委託プロ:水産庁) 藻場の修復・維持に関する調査・開発
研究期間:平成13~17年
研究担当者:寺脇利信,吉田吾郎,吉川浩二
発表論文等:吉田吾郎・吉川浩二・寺脇利信, 低温保存したアカモク幼胚の発芽率と成長, 日水誌, 66,739-740,2000.
吉田吾郎・吉川浩二・内村真之・寺脇利信 一年生ホンダワラアカモク冷蔵種苗の成長と成熟,藻類, 49,177-184,2001.