国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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2022年度日本海洋学会日高論文賞(水産技術研究所 山口 聖 ほか)

山口任期付研究員、2022年度日本海洋学会日高論文賞を受賞

掲載日:2022年12月5日

 山口任期付研究員(所属:水産技術研究所 沿岸生態システム部 有明海・八代海グループ)が2022年度日本海洋学会日高論文賞を受賞しました。 

授賞式の様子(写真:日本海洋学会提供)

授賞式の様子(写真:日本海洋学会提供)

 この賞は日本海洋学会の発刊する学術誌に掲載され、優秀と認められた論文の著者に対し授与されるものです。 日本のノリの主産地である有明海においてノリの色落ちの原因となる珪藻赤潮の発生機構の解明に寄与し、今後の対策にも資する成果である点が認められました。

受賞論文

Growth environment of diatoms in turbid water in the inner western part of Ariake Bay during winter

著者

山口 聖、 太田 洋志、 三根 崇幸

掲載紙

Journal of Oceanography, 75巻, 463–473, 2019
DOI: https://doi.org/10.1007/s10872-019-00515-8

論文の概要

 植物プランクトンの珪藻は、海洋の生態系を支える重要な一次生産者です。しかし、冬の有明海での珪藻赤潮の発生は、栄養塩の減少による養殖ノリの色落ちにつながるとして大きな問題となっています。有明海は大きな干満差を有する遠浅の海であり、また濁った海であるという特徴がありますが、このような特殊な環境下で珪藻赤潮がどのようなメカニズムで発生しているのか不明な点が多いのが現状です。

 本研究では、2017年2月に珪藻赤潮が起きていた有明海湾奥西部域において、河川から沖合域にかけて複数の定点を設定し、定期観測と連続観測を行うことで、珪藻の増殖環境として重要な栄養塩環境と光環境が満潮・干潮の変化に伴いどのように変化するのかを調べました。

 研究の結果として、珪藻の増殖環境が満潮時と干潮時で大きく変化していることが明らかとなり、特に干潮時の沖合域は、水深が浅くなることにより有光層の割合が高くなり光環境が好転するとともに、河川から流入した栄養塩が到達することにより、珪藻の増殖に良好な環境となっていることがわかりました。次に、珪藻は昼間に光合成を行うことから、このような好適な環境が形成される干潮が昼間の時間帯にくる期間を調べました。その結果、有明海では小潮から大潮に移行する際に干潮が昼間に来ることが明らかとなりました。従来から有明海では「小潮から大潮の潮回りで珪藻が増加する」現象が報告されていましたが、そのメカニズムとして「小潮から大潮の潮回りで沖合域に形成される好適な増殖環境」が関与している可能性が示唆されました。本研究の成果は、有明海における冬の珪藻赤潮の予察手法の確立やノリ色落ち対策の発案に寄与することが期待されます。