国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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日本哺乳類学会奨励賞(水産資源研究所 金治 佑)

金治佑主任研究員、日本哺乳類学会奨励賞を受賞

掲載日:2022年9月27日

 金治 佑 主任研究員(所属:水産資源研究所水産資源研究センター広域性資源部鯨類グループ)が、2022年度日本哺乳類学会奨励賞を受賞しました。

 この賞は哺乳類学の発展に寄与する優れた研究活動を展開し、今後の活躍が期待される若手の会員に授与されるものです。金治主任研究員が取り組んできた「小型鯨類の個体数情報に基づく保全管理と生息地・生態系評価に関する研究」が、日本の哺乳類学や生態学の発展に寄与し、鯨類の資源管理に大きく貢献するものとして評価されました。

受賞課題

小型鯨類の個体数情報に基づく保全管理と生息地・生態系評価に関する研究

受賞者

金治 佑 (水産資源研究所)

研究内容

 当機構水産資源研究所の鯨類グループでは1980年代以降、北太平洋の広大な海域において、大型調査船による目視調査を継続して実施しています。金治主任研究員はこれら長期間に蓄積されたデータおよびサンプルを用いて、次の3つの研究課題に取り組み、今回の受賞に至りました。

①個体数モニタリング調査と個体数の長期動向予測

 主に漁獲対象のマイルカ科鯨類について、ライントランセクト法を用いた目視調査を実施し、1985年以降の個体数変動を推定しました。また個体数推定値や捕獲統計、操業記録を統合的に解析する個体群動態モデルを開発し、資源状態の評価を進めました。これらの結果は行政機関や漁業者へ情報提供され、対象資源の管理・保全に役立てられています。

②空間分布モデルによる生息地と生態系の評価

 北太平洋で過去数十年にわたって記録された鯨類の発見データを空間分布モデルにより一括解析し、マイルカ科鯨類を中心とした14種の地理分布と個体数を推定しました。これら分布特性と種構成から、14種は地理分布の異なる4つのグループに分けられ、物理・生物環境や生態系構造の異なる熱帯・移行帯・移行領域・亜寒帯のそれぞれに対応することが分かりました。また、生態学の一般則である、種数の緯度勾配(高緯度域から低緯度域に向かって生物の種数が多くなる現象)が鯨類にも適用できることを示しました。

③生態的観察・分析による生息地利用様式の把握

 安定同位体分析や混群の観察から、鯨種間のニッチ重複や混群による競合・生息地重複が認められることを示し、マイルカ科鯨類はひとつの生態系のなかでも複雑な種間関係を持つことを明らかにしました。またバイオロギング手法を用いた行動解析により、生息地の利用様式を日々の移動や行動状態からより詳細に把握できるようになりました。鯨類による北太平洋の生息地利用を様々な観点から分析することで、生態学的特性の理解に寄与しました。

 

 授賞式・受賞講演は日本哺乳類学会2022年度大会において、三重大学生物資源学部を会場に8月28日に行われました。

金治 佑 主任研究員(受賞者)金治 佑 主任研究員(受賞者)
左:日本哺乳類学会 押田龍夫理事長 右:受賞者左:日本哺乳類学会 押田龍夫理事長 右:受賞者