ソロモン諸島におけるココナツ繊維を用いたナマコの天然採苗-熱帯域で初の事例、保全手法としての活用に期待
公表日 2022年3月22日
研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 亜熱帯浅海域グループ
谷田 巖ほか
天然採苗とは、養殖や放流用に、天然で発生した種苗を野外係留した素材に自然に付着させて採集する方法です。国内では、カキ、ホタテガイ、ホヤ、マナマコ等で行われています。ナマコの天然採苗は、これまで日本や中国、北米において温帯性のマナマコ属2種で報告されていましたが、熱帯性の種では報告されていませんでした。
熱帯域では、乱獲によるナマコ資源の枯渇が著しく、一部で人工種苗の放流による資源回復が図られていますが、ナマコの種数が多く、漁場も広いため、限られた種苗生産施設の能力では十分に対応できないのが現状です。そこで今回、熱帯域におけるナマコの天然採苗技術を確立するために、水産研究・教育機構、海外漁業協力財団、ソロモン諸島政府漁業海洋資源省、ナゴタノコミュニティ海洋保護区モニターメンバーからなる研究グループが、ソロモン諸島において試験を行いました。
まず、天然採苗に適した素材を選定するため、熱帯性ナマコ(オニイボナマコ)の人工種苗を用いて水槽で素材別の採苗効率を比較しました。その結果、ココナツ繊維とメッシュ生地が、従来の天然採苗で一般的に用いられてきたカキ殻よりも、表面積当たりで多く採苗できることをつきとめました。
次に、ココナツ繊維を網袋に詰めた簡易採苗器25基を3か月間、野外係留しました。その結果、複数種を含む14個体の稚ナマコが採苗されました。これにより、熱帯域においてもナマコの天然採苗が可能であることが初めて明らかになりました。
今回の採苗器は、熱帯域で日常的に消費されるココナツの廃材を用いて安価に作成でき、設置も容易であることから、地域コミュニティ主体でのナマコの保全手法としての活用が期待されます。今後の課題として、採苗に適した時期や場所などを検討し、効率的な採苗技術の構築が求められています。
本研究は、農林水産省の海外漁業協力強化推進事業により実施され、英文誌Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystemsに2022年3月に掲載されました。
天然採苗された稚ナマコ