国立研究開発法人 水産研究・教育機構

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塩分変化がヤマトシジミCorbicula japonica成貝の潜砂行動に与える影響

公表日 2022年1月23日

 

研究実施者:水産技術研究所 環境・応用部門 水産工学部 水産基盤グループ 多賀悠子ほか


 ヤマトシジミの放流前後の塩分変化と潜砂行動の関係を調べました。塩分変化が大きいと潜砂は遅く、小さいと早くなり、塩分変化が-4.7から+9.9のとき、潜砂行動が起こりやすくなりました。塩分環境を考慮した放流作業の重要性が明らかとなりました。

 汽水性の二枚貝であるヤマトシジミCorbicula japonicaは、本邦の内水面を代表する水産種です。漁獲量が減少した産地などでは種苗放流が行われていますが、資源量の増大に結びつかないことも多く、放流方法や放流地選定方法の再検討が必要となっています。種苗放流の成果が上がらない原因の一つとして、魚類等による食害が挙げられます。

 ヤマトシジミは潜砂することによって、魚類からの食害が減少することがわかっています。本種は河口域等の塩分変化が激しい環境に生息しているため、放流先や放流のタイミングによっては、種苗が放流前後に経験する塩分変化が大きくなり、潜砂行動に影響を与える可能性があります。

 そこで本研究では、放流後の速やかな潜砂の促進、ひいては放流後生残率の改善のため、塩分変化が潜砂行動に与える影響を飼育行動実験によって調べました。その結果、潜砂行動に対して塩分変化は負の影響を与え、塩分変化が大きい(塩分変化量:± 25)と24時間後も潜砂せず、小さい(塩分変化量:0)と0.56時間で潜砂することが分かりました。また、一定塩分で事前に馴致することで、潜砂行動が起こりやすくなることが分かりました。事前の塩分馴致がない場合、潜砂が生じやすい塩分変化の範囲は-4.7から+9.9と予測されました。これらの結果から、本種の放流においては事前の塩分馴致や、産地と放流先の塩分環境を揃えることが有効であると考えられます。

 この研究成果は、『Fisheries science』誌の2022年1月23日付のオンライン版に掲載されました。doi/10.1007/s12562-021-01575-w

事前の塩分馴致がない場合の、塩分変化量と相対的な潜砂のしやすさとの関係(左)。相対的な潜砂しやすさが1以上の時に潜砂しやすいと言え、塩分変化量の絶対値が大きくなるにつれて、潜砂が生じにくくなります。室内実験中の様子(右)。3馴致塩分(0、12.5、25)×5実験塩分(0、6.25、12.5、18.75、25)の組み合わせの塩分に曝露した際のヤマトシジミの潜砂所要時間を調べました。
事前の塩分馴致がない場合の、塩分変化量と相対的な潜砂のしやすさとの関係(左)。相対的な潜砂しやすさが1以上の時に潜砂しやすいと言え、塩分変化量の絶対値が大きくなるにつれて、潜砂が生じにくくなります。室内実験中の様子(右)。3馴致塩分(0、12.5、25)×5実験塩分(0、6.25、12.5、18.75、25)の組み合わせの塩分に曝露した際のヤマトシジミの潜砂所要時間を調べました。