スルメイカ類の需給及び流通・加工構造変化の解明
[要約]
いか加工品の販売環境の変化によって,原料仕入価格の上限が百円台前半まで切り下げられたことにより,網漁業の生産するスルメイカや輸入原料だけが加工原料としての条件を満たし,高付加価値化を進めたいか釣漁業の生産物はその条件を失いつつある。
中央水産研究所経営経済部
連絡先 045-788-7671
推進会議 中央ブロック
専門 水産経済
対象 スルメイカ
分類 研究
[背景・ねらい]
スルメイカ類の需要の中心は加工需要であり,従来その最大の供給者であるいか釣漁業が原料供給の中心的役割を担うことでいか釣漁業といか加工業の安定的な取引関係が構築されてきた。ところが近年,いか加工業では原料仕入価格の切り下げが求められているのに対し,いか釣漁業は生産物の高付加価値化を一層進めることで,両者の安定的な取引関係は後退している。しかし,原料の安定供給,生産物の安定需要は需給双方の経営安定化に不可欠の要素であり,その構築がいか釣漁業,いか加工業務双方の利益につながるものと考えられる。本研究では,いか釣漁業の加工原料市場での位置づけの変化を中心に,スルメイカ類の流通及び加工構造の変化を解明する。
[成果の内容・特徴]
- 総務庁「家計調査年報」により,家庭内における生鮮いかの消費動向をみると,近年価格の低下と消費の減少が同時並行的に進むという需要弱含みの典型的な消費衰退傾向を示しており(図1参照),いか加工品でも同様の傾向がみられる。
- さらにいか加工品では,近年量販売店やコンビニエンスストアでの販売が中心となったことにより,規格,定形,定価の定番型商品として評価される傾向が強まっている。
- 定番型商品を生産する加工業者が求める原魚要件としては,原料仕入価格の上限がキログラム単価で百円前半位までであるが,今日その条件を満たすものは定置,沖底,まき網の生産する網物スルメイカ及び輸入原料であり,釣物は総じて加工原料としての価格要件を失いつつあることが明らかとなった(図2参照)。このことが近年網物スルメイカの生産が急増していること,並びにスルメイカ類の国内生産量が多いことにも関わらず,高水準のイカ類の輸入が続いている原因となっている。
- いか釣漁業では近年魚価対策のため,生産物の高付加価値化を一層進めてきた。しかし,それはスルメイカ類の生鮮,総菜市場の過剰化を進めたため高付加価値化自体の効果を損ない,いか加工原料の釣物から網物,輸入品への転換を一層進める結果となった。
[成果の活用面・留意点]
近年のスルメイカ類の需給構造の変化をその原因,背景にまで掘り下げて解明したことにより,今後のスルメイカ類の安定的な需給関係を構築するための基礎資料としての活用が可能である。なお,その構築には生産,加工両面からの対応が必要であると考えられる。
[その他]
研究課題名:スルメイカ類の流通加工構造の変化が産地流通に与える影響の解明
予算区分 :経常研究
研究期間 :平成9~10年度
研究担当者:三木克弘
発表論文等:「イカ漁業の現状と将来展望(仮題)」(成山堂書店)第3章「スルメイカ類の流通・加工」に掲載予定