澤田浩一研究員が2023年度海洋音響学会論文賞を受賞
掲載日:2023年8月7日
澤田浩一研究員(所属:水産技術研究所環境・応用部門水産工学部)が2023年度海洋音響学会論文賞を受賞しました。
この賞は海洋音響学会が選定した海洋音響技術に関する優秀な論文に対して贈られるもので、海洋音響学会総会において表彰されるものです。
受賞論文
Target Strength of Juvenile Salmon, Oncorhynchus keta, for Acoustic Monitoring
著者
澤田 浩一、松裏 知彦、福田 美亮
掲載紙
海洋音響学会誌, 49巻2号, 46–67, 2022
DOI: https://doi.org/10.3135/jmasj.49.46
論文の概要
サケ稚魚は水面近くを泳ぐ傾向があり、船などから音を下向きに送波する魚群探知機では検出が困難です。このような場合には、送受波器の方向を横向きや上向きにして送受する方法が効果的ですが、新たに腹側や側面方向の後方散乱(音の、来た方への反射)の強さ(Target Strength、TSと略)の特性を調べることが必要となります。また、魚の後方散乱では鰾(うきぶくろ)の影響が大きいことが知られています。
そこで、軟X線によるサケ稚魚の鰾の形状測定により、厳密なTS推定が可能な理論モデルで鰾の形状を近似できるか検討しました。その結果、鰾の高さと幅の比は1に近く、また長さは標準体長に比例していることから、中空回転楕円体級数理論モデルが適用可能であることがわかりました。
次に、計量魚群探知機で良く使用される4つの周波数(38、70、120、および200kHz)について、同モデルによって鰾形状に基づくTSを予測しました。加えて、屋内水槽でサケ稚魚実物のTS測定を行い、予測値との比較を通じてモデルの有効性を検証しました。
さらに、一般に魚の姿勢分布により平均TSが大きく変動することが知られていることから、65尾のサケ稚魚について平均姿勢角や姿勢角の標準偏差が異なる複数の姿勢分布を仮定し、理論モデルにより期待される平均TSを計算しました。計算結果から、姿勢分布の標準偏差を一定として、異なる平均姿勢角を与えた場合、体長を波長で規準化した値が低い方(体長が同じであれば周波数が低い方)が平均TSは高くなり、平均TSの変動が小さくなる傾向が示されました。
これらの結果から、サケ稚魚の音響調査には、上記の4つの周波数の中では、低周波側の38kHzを用いる方が有利であることがわかりました。これは、サケ稚魚と似た有鰾魚(鰾を持つ魚)である琵琶湖のコアユなど、有鰾かつ小型の魚の音響調査についても低周波が有利であることを示唆しています。本研究の成果は、サケ稚魚のモニタリングの高度化に資するものであり、効率的な放流に寄与することが期待されます。