クルマエビ資源減少の潜在的メカニズム:大きな雌の減少による繁殖特性の変化
公表日:2025年 8月 21 日
研究実施者:水産技術研究所 生産技術部 佐藤 琢
長期漁獲データ等を用いて瀬戸内海のクルマエビ資源を調査したところ、大型雌の減少が資源の繁殖に深刻な影響を及ぼしていることが示唆されました。資源の体サイズ組成の維持管理は、クルマエビ等水産資源の持続的利用に重要な施策であることを提案しました。 |
種によっては、大きな雌は、小さな雌に比べて、多くの卵を生んだり、早い時期から産卵を開始することによって産卵期が長かったり、体サイズや飢餓耐性の異なる質の子を産むことが知られています。そのため、大きな雌の減少は個体群の繁殖特性に変化をもたらす可能性があります。近年、瀬戸内海で漁獲されるクルマエビでは、大きな雌の減少が観察されており、それが資源減少メカニズムのひとつとして疑われています。
そこで本研究では、クルマエビの資源減少メカニズムを明らかにすることを目的に、まず瀬戸内海の複数海域における長期漁獲データを用いて雌の体サイズの経年推移を調べました。次に、雌の体サイズ組成の変化が(1)産卵1回あたりの産卵数、(2)ふ化幼生の体サイズおよび飢餓耐性、(3)産卵時期、(4)幼生の着底時期と資源加入成功率の関係に与える影響について分析しました。
その結果、瀬戸内海では約20~30年の間に体長220 mm以上の大きな雌がほぼ漁獲されなくなっていることがわかりました。大きな雌の減少によって、(1)産卵1回あたりの産卵数の減少、(2)体サイズが小さく、かつ飢餓耐性の低い、生存に不利と予想される幼生の産出、(3)産卵期が短期化し、好適なタイミングでの幼生の干潟への着底機会が確率的に減少することによる資源加入成功率の不安定化、(4)産卵開始時期が遅れることによって幼生の着底時期が捕食圧の高いタイミングに集中することによる資源加入成功率の低下が起こることがわかりました。
以上のように、大きな雌の減少は、クルマエビ資源の繁殖特性を変化させ、それに伴って再生産に大きな影響を与えていると考えられ、これが資源減少メカニズムのひとつであると推測されました。水産資源の持続的利用においては、資源の体サイズ組成の維持管理とそれによる繁殖特性の保全が重要な視点として認識されることを期待します。
本研究の一部は、水産庁事業(自主的資源管理体制高度化事業、EEZ内資源資源・漁獲管理体制強化事業、資源・漁獲情報ネットワーク構築事業、さけ・ます等栽培対象資源対策事業)によって実施されました。
本研究成果は、国際科学雑誌「Marine Ecology Progress Series」に2025年8月21日に掲載されました。(https://doi.org/10.3354/meps14907)